鷲はいまどこを飛ぶか

ミステリとSF、ときどき東方。

週刊少年サンデーの現状についての雑感

まえがき

「『少年サンデー』を毎週読んでいる」

 そう云うと、初めて聞く相手は大概驚く。どうも自分は、漫画を、とりわけサンデーを購読するような人間には見えないらしい。確かに、自分の趣味の傾向からしても、その発想は不自然なものではないし、自分自身、漫画を読むとしても青年漫画や『ハルタ』(KADOKAWA)などの方が好きだろうと自覚している。

 そんな自分がなぜサンデーを読んでいるかと云えば、兄の影響だ。もともとサンデーは兄が購読しており、自分はそれを読んでいた。いつしか兄はサンデーを読まなくなったが、週に一度サンデーを読むことが習慣化していた自分は、それからもサンデーを読み続けた。サンデーとの付き合いは、もう十年ほどになる。その間、読むのをやめた時期は一度もないはずだ。

 自分の趣味ではない漫画雑誌をずっと読み続ける。これはなかなか得られる経験ではない。加えてサンデーは、自分の周囲では現在進行形で定期購読している人間がひとりもいない。ここはひとつ、いまのサンデーがどうなっているのか、それを自分はどう捉えているのか、語ってみても良いだろうと考えた。以下は、現在のサンデー連載作品への雑感である。

 あらかじめことわっておくが、自分は漫画に詳しいわけではない。較べる対象も、数少ない漫画読書経験と、過去のサンデー作品しかない。漫画評論としてのレベルは、あまり期待しないでください。

 取り上げる順番は五十音順である。

 

『あおざくら 防衛大学校物語』二階堂ヒカル

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 防衛大学を舞台にした青春学園ストーリー。金銭的な苦しさと何か大きなことをしたいと云う思いから防衛大に入学した青年が、厳しい大学生活を通じて仲間と共に成長していく。

 読者の多くにとって非日常であろう学校で、その特殊さならではの青春と、それでも若人たちが抱える普遍の苦悩と成長を描くと云うのは、荒川弘銀の匙』にも通じるが、農業高校と防衛大学の性質の違いに留まらず、キャラクターや彼らの熱さ・青さ・馬鹿さ・弱さの描き方によって、差別化はできているように思う。当初懸念していた愛国主義的思想への偏りもあまり見られず、いまのところはそれぞれのキャラクターを描きながら彼らが何を守りたいのか、どんな大人になりたいのかに焦点を合わせ、あくまで彼らの青春からぶれていないのが好印象。

 作者の二階堂ヒカルは以前サンデーで『ヘブンズランナーアキラ』を連載していた。当初はギャグ漫画としてはじまりながら、いつの間にか熱さほとばしる陸上漫画になっていた作品であり、おそらく後者の方が作者の本領なのだろう。『ヘブンズ~』の、ギャグと青春が混ざり合って混沌とした味わいも嫌いではなかったが。

 

『アノナツ -1959-』福井あしび

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 現代の高校球児が、1959年にタイムスリップ。名選手であった祖父と出会う。

 すっかり掘り尽くされたと思われた野球漫画に、時間SFの仕掛けを取り込んだユニークな作品(前例はあるのかも知れないが)。現代の野球理論で圧倒するような事態にはいまのところなっておらず、異世界転生的チートが好きではない自分にとってそこは一安心である。どこまで続けるのかわからないが、物語はまだまだ序盤、いまの時点で作品全体に何らかの評価を下すことはできない。

 ただ気になる点が一つ。この作品、全然続きが気にならないのだ。高校球児だった祖父が甲子園で優勝することは第一話、現代で明かされており、祖父と孫が時を超えて協力し甲子園優勝を目指し、しかもそれが達成されるのであろうことは見当が付く。すくなくとも、どうせそうなるのだろう、と云う予想を裏切ってくれていない。タイムスリップしてすわ歴史改変かと思われたが何だかんだでもとの歴史に収まる――と云う物語は沢山ある。野球漫画でそれをおこなうと云う斬新さだけでは(野球にあまり興味がない身としては)、興味を惹くにはまだ足りない。これから独自の魅力を築けることに期待したい。

 

天野めぐみはスキだらけ!ねこぐち

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 豊満な肉体を持った女子と、彼女の無自覚な誘惑に悶々する男子のラブコメ。少年漫画雑誌なら常にひとつはあるエロ枠である。

天野めぐみ』の特徴は、その健全さと日常性にある。女の子たちが裸になったり、性的に襲われたりと云った、あからさまなエロを描くことはあまりない。直接的な描写がないだけでほとんど成年向け漫画――と云う事態にはならず、ジャンプの某幽霊のアレなどとは差別化しつつ、日常の中のエロを追及する。例えば、前屈みになって胸元が見えてしまう、ちょっとしたことで身体に触ってしまう、と云った具合。その健全さが微笑ましい。

 このように、エロ枠としては大変好ましい作品だが、自分が気になるのは、男のキャラクターである。東大を目指していると云う彼の勉強法はしゃにむに勉強すると云うもので、見ていて危なっかしい。あんな非効率なやり方をすれば、受かる大学も受かるまい。頭もちょっと固いようだ。苦境に陥っても読者として応援より心配がまさってしまうキャラクター造形は、いささか失敗しているのではないかと思う。自分が大学受験にいろいろなトラウマがあるからと云えば、それまでだが……。ヒロインの隙たっぷりな振る舞いに妄想たくましくしている部分は、年相応で好感が持てる。

 

『妹りれき』西村啓

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 妹の検索履歴を見られるようになった兄が、それを通じて完璧美人に思われていた妹の新たな一面を知っていくギャグ漫画。

 完璧な外見と天然気味な内面とのギャップが可笑しく、可愛らしい。クスリとしてしまうギャグセンスも悪くない。が、次が読みたくなるほどの求心力は持てていない。『アノナツ』とは別の意味で、続きが気にならない。強いて云えば、twitterで流れてくる数ページのコンセプト先行な漫画に近い。twitterと云う場であればそれはひとつの強さだが、週刊雑誌では吉と出るだろうか?

 現在サンデーには、大きな柱を持たない本作のような一話完結形式の作品が増えたように思う。それを目当てに読むメインディッシュではなく、掲載していれば安心し、つい読んでしまう酒の肴のような作品。その存在自体は良いが、増えすぎるのは良いと思えない。次の号を買うモチベーションが惰性に近いものになるからだ。

 

『水女神(ウンディーネ)は今日も恋をするか?』三簾真也

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 水不足にあえぐ砂漠の国では、水を作り出せる能力を持った少女が重宝されていた。なんと彼女は恋にときめくことによって、能力が活性化すると云う。彼女と両思いである少年は、彼女をときめかせることができるだろうか……。

 第一話を読んで、大丈夫かサンデー、と本気で危惧した。恋にときめくことで身体から水が噴出するのだが、描き方が妙に性的で、あまりに安直なメタファーに思えたのだ。流石に何か云われたのか、現在は性的な描写は控えめになり、互いに恋を自覚しながら関係を深められない少年少女のもどかしい恋愛が主軸になっている。

 まだまだ序盤だが、こちらもtwitter漫画的なのが気になる。コンセプト先行から脱して、各キャラクターで物語を動かせるようになるかがポイントだろう。後に述べるが、『魔王城でおやすみ』などはその点、成功している。

 

君は008松江名俊

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 優秀なエージェントを父に持つ少年。彼はエージェント養成学校でエージェントとして成長し、仲間と友情を育み、父の死の真相に迫る一方で、世界の闇と対峙することになる。

 この作品を読むと、過去作にして代表作の『史上最強の弟子ケンイチ』がいかに王道少年漫画的熱さと無茶苦茶なほら吹きとを絶妙なバランスで成り立たせていたかわかってしまう。画力の高さ、男性の格好良さ、女性の美しさ(過剰な性的さは気になるが)、そして王道の熱さは本作でも健在だが、諜報員と云う設定を持ち出しておきながら国家間の虚々実々のやりとりなどなく、絶対的悪を登場させ、エージェントをそれと戦う正義の立場としてしまうのはかなり安易ではないだろうか。細かい設定だけ入れ替えて、全体の構図は過去作と共通しているように感じる。何か新しいものを見せてくれるかと期待していたが、ついに予想を超えることなく物語は世界説明からメインに移ってしまった。

 ただ、個々のエピソードや瞬間的な戦闘・ラブコメはやはり面白い。単行本を買おうとは思えないものの、載っていると読んでしまう。週刊連載としてはそれはそれで正しいのかも知れない。

 

銀の匙荒川弘

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 説明不要の大人気農業高校青春グラフィティ。長期休載を度々挟みつつ、物語はまだ続いている。普段は連載が続いていることも忘れてしまっているが、掲載されるとやはり面白く、毎週続きを楽しみにしてしまう。

 もう物語は終盤。『マギ』などに続き、サンデーはまた大きな柱を失うことになりそうだ。代わりに生まれているのが前述した一話完結式漫画なので、読者の心配は募る。
 なんだかネガティヴな話ばかりしているな……。

 

『クロノマギア ∞の歯車』ストーリー原作=河本ほむら・武野光 作画=東毅

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 原作はクロノマギアと云うデジタルカードゲーム。全く知らないので、どこまで原作要素を取り入れているのかわからない。ただ少なくともこの漫画版は、あまり面白くない。

 作画は『電波教師』の東毅だが、あの作品は画よりも魅力的なキャラクターたちと彼らの織りなす愉快な物語こそ魅力だったはずだ。それを作画担当にとどめてしまうのは、なんとも勿体ないように思う(もしかすると、原作にまで口を出せているのかも知れないが)。加えて、いざ読んでみると戦闘描写などは正直云ってあまり巧くなく、本領を発揮させてもらっていない東の扱いはいっそ可哀想なほどだ。

 ストーリーも上出来とは思えないが、序盤で読むのをやめてからは毎週流し読みしかしていないので、具体的なことは述べない。

 

五分後の世界福田宏

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 双子の少年と幼馴染みの少女。ずっと続くと思っていた3人の日常は、あるとき突然壊れた――。サンデーで続きが気になっている作品のひとつ。第一話の衝撃が半端ではないので、なるべく前情報を仕入れずに読んで欲しい。

 ひとつ云えるとすれば、前作『ムシブギョー』同様、生理的嫌悪を催す敵による絶望感が、さらに強調されていること。前作の面白さを踏襲しつつ、新たな境地を切り開いており、その点でも好感が持てる。

 物語は確かに進み、謎は解明されているのに、物語の行く先がさっぱりわからないのも見どころ。わりあい論理的に漫画を描く作家だと思うので、これからにも充分期待できるだろう。

 

古見さんは、コミュ症です。オダトモヒト

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 優れた容姿と並外れたスペックを持ちながらコミュニケーションが苦手な少女を主人公としたラブコメディ。とても面白いが、本作の人気が出たから同様の一話完結式コメディが増えたのではないかと邪推している。

 強烈にデフォルメされたキャラクターたちによるわかりやすさが、陳腐さではなく親しみやすさとして機能しているのが作者の巧さだろう。名前と一コマの描写だけでキャラクターを構築してしまうテンポの良さと、彼らが生み出す笑いと甘酸っぱさの絶妙な塩梅は一貫してレベルが高い。一話完結式ではあるが、メインの少年少女のもどかしい恋愛模様もしっかり描かれているので、続きも気になる。このままだれることなく、三年生の卒業まで走りきって欲しい。

 

『switch』波切敦

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 天才的なバスケットボールプレイヤーである兄と、双子でありながら存在する才能の違いに劣等感を覚える弟。だがあることをきっかけに、ふたりの立場は入れ替わる――。連載陣の中でも問題点が多い作品。悪くない部分も少なくないだけに、余計粗が目立つ。

 まず、弟のキャラクターに難がある。兄へのコンプレックスを抱えるのは良いし、それで文化系を気取るのも良い、だが実際は文化系を演じていただけで、人知れずバスケの練習を重ねていました、となれば話は違う。冒頭でこの事実が明かされたとき、スポーツから縁遠い世界で生きてきた自分にとってはじめに抱いたのは、怒りだった。読書やゲームに自分の居場所を見出している人間にとって、演じていただけ、としてきっかけひとつで居場所を体育会系的バスケに切り替えてしまうキャラクターに好感は持てない。何より、そう云う造形を大したフォローもなくやってしまう作者の姿勢に怒りを覚える。天才肌の兄と努力家の弟、として区別を図ることも可能だったはずだし、ふたりの違いと双子だからこその同一性のバランスこそ作者の腕の見せ所だろう。そのあたりをとても雑に描いてしまっているように思う。

 加えて、バスケ描写も問題だ。自分はバスケに疎いが、少なくとも本作のように必殺技的な特殊能力がバンバン出てくるものではないことくらいはわかる。リアルさを捨てて漫画表現ならではの面白さを追及するにしても、思い切りが足りない。結果、大枠は普通のバスケ漫画なのに、試合になった途端、不思議な名前の必殺技(「黒き監獄」って何?)が登場する――と云うアンバランスな事態になっている。

 最近では、前回敵だったキャラクターが味方につくまでの一連の過程などは充分面白かったし、良い部分がないわけではない。バランスの悪さも、リアルに走ろうと奇想に走ろうともっと面白い前例があると云う現状、仕方ないのかも知れない。以上挙げた他にも存在する細かな粗をなくせば、少なくともストレスなく読めるようになると思うのだが……。

 

絶対可憐チルドレン椎名高志

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名探偵コナン』に次ぐ長期連載。どう決着を付けようとしているのかは見えてきたが、最終回にはもう少し時間がかかりそうだ。

 サンデーを読み始めた頃からずっと連載しているため、最早空気のようにそこにあるのが当たり前な存在になっている。熱心に読んでいるわけではないが、もし最終回を迎えたらちょっとした喪失感に襲われるだろう。少なくとも最近は惰性に陥ることもなく、伏線をはったり回収したりしつつ、エスパーとノーマルの対立や人間の心の在り方など、テーマもしっかり掘り下げて、一定の面白さを維持しいる。流石の安定感。

 

蒼穹のアリアドネ八木教広

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 大きな戦争が終わった後の時代。かつて兵器として生み出された少年は人里離れた地でひっそりと暮らしていたが、広い世界への憧れを持ち続けていた。そんなある日、彼は宙に浮く能力を持った少女と出会う――。

 第一話は、「ボーイミーツガールSF冒険ジュヴナイル」として完璧と云って良い。世界観を提示しつつ少年と少女のキャラクターを立て、魅力的な設定と王道のストーリーで引き込んで、これからの旅と大いなる物語のはじまりを予感させる。リンク先から試し読みできるので是非。

 正直、第一話で最高潮にあがったテンションは話が進むにつれ低迷していくのだが、最近は持ち直してきた。SFバトルよりも、世界設定とそこで生きる人間たちの描き方に力を入れはじめたからだ。とりわけ最近のエピソードである、ドラゴンとそれを狩る種族のシステムは、予想を超えてきた上に倫理的に重いテーマを(少年漫画的熱さを忘れることなく)描いていて興味深い。広い世界のいろいろな価値観と出会いながら、ままならない運命をはねのけつつ、ふたりの旅路はこれからも続く。

 

双亡亭壊すべし藤田和日郎

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 どんな手段を講じても壊せない屋敷。そこに眠るのは一体……。

 巨匠が新たに手がけるホラーアクション。さらに和風ファンタジーやSFの要素も取り込んで物語は混沌とするが、縦軸は人間の強さと想いによって貫かれており少年漫画として充分面白く読める。この気持ち悪さと熱さの絶妙なバランスが堪らない。

 何より強烈なのはラスボス・坂巻泥怒のキャラクター。妄執とプライドと愛情と憎しみと、いずれも激しいそれらが内包された彼の個性は、色んな意味で強すぎる。漫画がどのような結末を迎えようと、彼のことは忘れがたい存在になるのは間違いない。

 

『第九の波濤』草場道輝

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 都会っ子だった少年は、ひょんなことから水産大学に入ることに。良き仲間たちに囲まれ、はじめは戸惑いを覚えていた彼もやがて成長していく。

銀の匙』『あおざくら』と同系統だが、過剰なデフォルメを廃しつつ、その緩やかさと誠実さ、リアリティで独自の味をしっかり出している。スロースタート気味だが、各々のキャラクターが構築されたいまはそれぞれの成長と苦悩が非常に面白い。個人的にはもっと親しまれても良い作品だと思う。サッカー漫画描いていた頃より好感が持てるのは、題材がぐっと身近になったからだろうか。地味ながら手堅い。

 

探偵ゼノと七つの殺人密室』原作=七月鏡一 作画=杉山鉄兵

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 建築家にして犯罪コンサルタントであった男が自分の作品の中に紛れ込ませたと云う《殺人密室》。建物自体が殺人のために機能する恐るべきそれらに、記憶をなくした名探偵が立ち向かう――。

 ミステリ漫画としては、現在コナンより好感を持っている。ラブコメなどに走らないソリッドな作風や、帝政が続いているらしい世界観、時折飛び道具のように不意を突いてくる展開が持ち味。メインである《殺人密室》のトリックはギャグ一歩手前のはちゃめちゃなものだが、長篇エピソードの合間、幕間劇のように挟まる短篇はミステリとして面白く読める(とりわけ「あの女を殺した日」のはなれわざは見事)。メインの方も、最近はミステリをしっかり描こうと云う気概が伝わってきて、とくに隠神島のエピソードは予想を裏切る展開の畳かけで非常に楽しかった。これからにも期待したいミステリ漫画である。

 

トニカクカワイイ畑健二郎

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 とにかく可愛い少女と彼女に命を救われた少年、ふたりはある日突然結婚することに。『ハヤテのごとく』と云う長期連載を終えた畑健二郎が隠居生活に入ったような、ゆるめの新婚生活漫画である。

 後半はもう何をやりたいのか混乱していた印象が否めない『ハヤテのごとく』と違い、可愛い女の子とのイチャイチャが描きたい、と云う目的がはじめからいままで一切ぶれていない。少女の正体については小出しにされている情報からしてシリアスに持ち込めそうだが、いまはがっつりそこに踏み込む気配はなさそうだ。方針が定まっているからか、ギャグの切れもかなり良くなり、毎回クスリとしてしまう。そうそう、こう云うので良いんです。

 

『BIRDMEN』田辺イエロウ

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 町で噂の《鳥男》。屈託を抱えた少年少女たちは、図らずもその噂の真実に巻き込まれてゆく。

 サンデー連載陣と較べるまでもなく、圧倒的面白さを誇るSFジュヴナイル巨編。序盤こそスロースタートだが、キャラクターたちの心理や伏線、謎と設定の提示をひとつとして疎かにしないその着実な足取りは、やがてとんでもないヴィジョンを展開する。ストーリーだけでなく、コマ割、演出、台詞回しも細部まで考え抜かれており、隙がない。第一話から最新話まで、一話も面白くない回がないのだ。

 しかしその割に名前が知られていないのは、その面白さの説明が非常に難しいからか。本作は、どうせこうなるだろう、と云う読者の予想を少しずつ裏切り、王道や定石をなぞらない。だからと云って、斜に構えているわけでもない。キャラクターひとりひとりが抱える物語がいくつかの流れを造り、大いなる物語へと発展していく様を描く筆致はむしろ極めて誠実だ。世界の変容が加速する一方、それぞれの物語はむしろ解像度を増していく。驚異的なストーリーテリングの巧さ!

 そんなわけで、本作の面白さを確かめるにはまず読んでもらうのが手っ取り早いだろう。現在、次のリンク先で3巻まで無料で読むことが可能である。

www.sunday-webry.com

 3巻ラストに登場する《EDEN》が本篇に絡みはじめたあたりから物語は加速する。ぜひ、そこまで見届けていただきたい。

 

初恋ゾンビ峰浪りょう

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 男は初恋をすると、その相手をモデルにした守護霊のような《初恋ゾンビ》を得る。彼女たちの存在は普通知られていないが、主人公の少年は額の怪我をきっっかけに、見ることができるようになり……。

初恋ゾンビ》と云う特殊設定をこれでもかと使い倒したラブコメディ。序盤で驚きの――少なくとも、自分は初読時に驚いた――展開があるのであまり深くは触れないが、一見すると一発ネタで終わりそうな設定を、かなり巧く利用して展開を作り出し、作品の根幹のテーマにも繋げている。個人的に面白く感じたのは、主人公自身の初恋ゾンビの存在だ。妄想が生んだ守護霊である彼女は、物語が進むにつれ、どんどん自我を獲得していく。自分の妄想を愛せるか――こんな問いまで投げかけてしまう本作はスペキュレイティヴ・フィクションの趣も漂う。

 なお本作は今週3月27日発売のサンデーでめでたく最終回を迎えた。難しいテーマも孕みながら、物語と誠実に向き合い続け、至ることが出来た良いラストだと思う。

 

『BE BLUES!~青になれ~』田中モトユキ

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 幼い頃から日本代表を目指し、日々の特訓に余念がない少年。次々と襲い来る逆境を乗り越えて、彼は未来を見つめ続ける――。イチロー的サッカー少年の一代記、現在は高校編。

 サッカーのルールはよくわからないし(オフサイドって何?)、競技への関心も薄いのだが、それでも、本作は充分面白いと思う。興味がない人間を引き込むだけでも、筆力の高さがうかがえる。画の巧さ、展開の巧さ、キャラ立ての巧さ、いずれもハイレベルで、連載陣の中でも信頼を置ける作品のひとつだ。

 本作の面白さのひとつは、必殺技や派手なプレーを極力廃し、素人なら何がすごいのかわかりづらいはずのテクニックを重視しながら、各々のすごさが表現されている点。かと云って詳しい解説をおこなうわけでもなく、実写なら地味な画を絵によって鮮やかな瞬間として捉え、すごいことが起こっていると云うことを端的に説明してしまう。作者側に高い技量がなければできないことだ。

 もうひとつ、面白いのは主人公の造形。まず、彼は平凡ではない。けれど、天才肌として描かれるわけでもない。前述したが、冷静に理論と計画を組み立て、着実に実行に移し、見事に目標を達成していくその姿はイチローも彷彿とさせる。その隙の無さ、出来すぎ具合はいっそ気持ち悪いほどで、読者側の感情移入を拒んでいる節がある。しかし、実際に大成するのはそう云う人間なのだ。このリアルさがたまらない。登場する女の子たちが軒並み彼に惚れていくのもリアルだ。他の男キャラにはフラグなんてほとんど立たない。それが哀しいほどにリアルで、素晴らしい。

 難点があるとすれば、試合に入ると展開が遅くなることだろう。これはスポーツ漫画の常ではあるが。

 

『FIRE RABBIT!!』ひらかわあや

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 プロゲーマー志望だった少年は、命を賭して自分を救ってくれた消防士の意志を継ぐようにして、消防士を目指す。

 作者のひらかわあやはこれで連載3作目(いずれもサンデー)。可愛らしい絵柄で特殊な仕事と業界を舞台とするのが特徴である。前作『天使とアクト!』は声優、前々作『國崎出雲の事情』は歌舞伎をメインに、漫画ならではの表現を駆使してその魅力やドラマを描いてきた。本作も消防士漫画だが、リアルではない漫画的フィクションを多々含んだ、それでいて消防士の漫画としか表現できない、特異なひらかわあや流の消防士世界を構築している。

 キャラクターの立て方などが自分の好みからは外れてしまうが、特殊な業界を扱いながら広く支持されるような物語を作るその技量は高い。

 

保安官エヴァンスの嘘栗山ミヅキ

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 開拓時代のアメリカ西部。一流のガンマンでありながら、モテたいと云うだけで保安官になった男の勘違いコメディ。

 舞台こそ西部劇ではあるのだが現代日本的恋愛観で占められており、時折「なんでガンマンなの?」と疑問も浮かぶが、ガンマンとしての高い力量があるからこそ、こと人間関係になると弱くなるギャップが映えるのだろう。内面描写やナレーションによるツッコミがなければ、主人公は普通にイケメンである。女にもてるかは別として。

 基本一話完結式のギャグ漫画だが、サンデー連載陣の同様の作品に較べるとギャグのセンスが飛び抜けて良い。毎回、勘違いが勘違いを呼びながらなんだかんだ一件落着してしまう、良質なコメディに仕上がっている。若干マンネリの兆しが見えてきたのが心配だが、新キャラクターたちで巻き返しできるだろうか。

 

舞妓さんちのまかないさん小山愛子

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 京都の舞妓さんたちが暮らす《屋形》で、まかない係としてはたらく少女。彼女の作る美味しい料理が、きょうも舞妓たちを支える。

 大きなドラマなどはほとんどないものの、ゆったりとした日常と京都の四季、舞妓の世界に生きる少女たちを丁寧に優しく描いた、滋味深い作品。毎回「ほっこりする」と云う形容がぴったり合う。ここまで結構な作品を腐してしまったが、そんな自分がひどく醜く思えるほど清らかで、綺麗だ。

 一応、少女たちの甘酸っぱい関係なんかもあるのだけれど、その酸っぱさも鋭すぎることはなく、柔らかな空気感が作品全体を包み込んでいる。毎週サンデーを読むときは、本作でほっと息をつくのが恒例。それを狙ってかは知らないが、ちょうど中間に来ることも多いように思う。

 

魔王城でおやすみ熊之股鍵次

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 魔王に囚われた姫。しかし彼女の一番の悩みは、牢獄の環境が最悪なせいで、安眠できないことだった――! 一話完結式のギャグ漫画だが、ゆるゆる続いて気付けば単行本も10巻。まさかこんなに続くとは思っていなかった。

 あれこれ悪戯をやらかすものの、愛嬌で許される姫が好き放題するうちに魔王城の男どもを攻略していくラブコメ、とも読めるだろうか。はじめは「睡眠」をテーマに絞ったギャグで進めていたが、そのうち勘違いやすれ違い、ラブコメ的ネタも投入して、当初のコンセプトに縛られることなくキャラクターと設定でギャグを回している。そのさりげなさが巧い。いまのところ面白いし、話自体はいつでも終わることが可能、と云うある意味最高の状態である。後はこれで、やれることをやり切った果てに潔く終われば云うことはない。

 

名探偵コナン青山剛昌

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 サンデー最古参のラブコメ漫画。よく殺人が起こって推理する。

 一応ラスボスの名前は明かされたし、物語を進めていこうと云う意志もうかがえるのだが、『名探偵コナン』の無いサンデーは想像が付かない。安室透の大波に乗りながら、まだまだ続くのではないだろうか。

 前述したとおり、ミステリとしての質を求めるならば現状、他を当たった方が良い。悪くないエピソードもあるにはあるのだが、その評価も(最近のコナンの中では)と云う括弧書きが付いてしまう。それでも時々、ヒットを打ってくれることがあるので侮れない。結局、毎週読むことになる。

 

名探偵コナン ゼロの日常』新井隆広

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 安室透がイケメン――第一話から最新話まで、高い画力で、ずっと、ひたすらに、それだけを描いている。すごい。スピンオフは普通、そのキャラをじっくり掘り下げるものだと思うが、本作は「安室がイケメン」と云う期待に応えるために存在している。稀に踏み込むこともあるが、あくまで物語が描こうとしているのは「安室がイケメン」、それのみだ。いっそ好感が持てる。

名探偵コナン』において安室がどれだけ大きい存在なのかわかりづらい方は、pixivの小説ランキングを見てみると良い。上位を占めるのは大体コナン関連、その多くが安室関連である。初めてそれを見たとき、「安室の女」などと云う言説を冗談半分に聞き流していた自分を恥ずかしく思った。安室は最早、コナンに限らず絶大な人気を誇る、重要なキャラクターなのだ。道理で頻繁にサンデーの表紙を飾るわけだ。

 妙に斜に構えた文章になってしまったが、これは決して、皮肉ではない。安室はいまのサンデーを支えてくれている偉大な存在であるし、本作で描かれる安室のイケメンっぷりには男である自分も感服してしまう。これからもそのイケメンっぷりで、サンデーを支えて欲しい。

 

MAJOR 2nd満田拓也

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 大人気野球漫画『MAJOR』の続篇。あの男の息子による、新たなる野球物語。

 この作者は、読者から求められているであろうスポーツ漫画を描きながら、断じて過去作の焼き直しをしない。その挑戦の姿勢が素晴らしい。本作も、長く続いた名作の続篇としての要件を満たしながら、独自の面白さを獲得している。

 現在は長期休載中。再開が待たれる。

 

湯神くんには友達がいない佐倉準

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 我が強く、自己完結しがちな少年と、彼に振り回される周囲の人々を描くお一人様コメディ。

 ちょっとした関係のこじれが波及して大きな問題になっていく過程の自然さ、人間の面倒くささや人間関係の鬱陶しさを笑いに変えてしまう巧さに、作者の洞察力がうかがえる。見る人によって人間の印象なんて容易く変わるし、人間の性格なんて一面的なものではない――この厄介さを、作者は見事に捉え、コメディとして描いてみせるのだ。

 人間は決して綺麗なものではないし、基本的にはみんな薄情で、どんな関係も儚い。けれどそれでも、良いことはあるし、大切なことがある――斜に構えているようで誠実な、この人間観が癖になる。

 

妖怪ギガ佐藤さつき

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 妖怪たちの悲喜こもごもなドラマをオムニバス形式で描く短篇集。

 妖怪よりも怖い人間や、人間よりも怖い妖怪、人間と妖怪の切ない恋、人間と妖怪の愉快な関係……。様々な形で描かれる、ひとと妖怪の姿。恐ろしさと可愛らしさが同居した絵柄で綴られる彼らは、ひとひとりが愛おしい。小粒だが、愛に満ちた作品だと思う。

 定期的に描かれる縦軸のエピソードで読み手の興味を引き続けるのも心憎い手法だ。なるべく悲惨な結末にはならないことを願うばかりだが……、同じ筆致でハッピーエンドもバッドエンドも描いてしまう作品なので、最後まで目が離せない。

 

『RYOKO』三ツ橋快人

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 食材が自我を持つようになった世界に生きる少女と家族のサバイバルライフ。荒削りな部分もあるが、細かな瑕疵を気にさせないだけの熱量がほとばしっている。

 まず、食材が襲ってくると云う設定が良い。怪獣化した野菜や海の幸を狩る、そのシュールながらシリアスな画のインパクトで面白く読めてしまう。白米のラスボス感が半端ではないし、ブロッコリーの長老感も良い。文字に起こすとギャグなのに、作中では生きるか死ぬかの物語なのだ。このギャップが魅力である。

 どこまで続けるつもりかはわからないが、物語はおそらく後半戦。長期化してだれてしまうより、これくらいの長さで綺麗にまとめ上げて欲しい。

 

 以上、他にも連載企画はあるが、現状のサンデーに対する自分の印象はざっとこんなものである。思ったよりも分量が多くなったので、総評として長く語るのはやめておきたい。お付き合いいただきありがとうございました。

 

週刊少年サンデー 2019年 4/10 号 [雑誌]

週刊少年サンデー 2019年 4/10 号 [雑誌]