鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

日記:2020/05/18

 実家に帰った途端、体調はずいぶんマシになった。自分の部屋を取り返せたのも理由だろうが、やはり下宿との大きな違いは、誰かとの接触、それにともなう単調な毎日の揺らぎだろう。

 あまりにも予定を崩されると苛立つこともあるけれど、こちらから積極的に調和を求めずとも単調で退屈になってゆく毎日のなかではむしろ、調和が少し崩されるくらいが丁度良いのかも知れない。朝食、講義、昼食、講義、おやつ、夕食、食後のコーヒー――下宿でこのリズムを再現してもかえって疲れるだけだとわかった。重要なのは、その単調さのなかに生れる揺らぎなのだ。

 

 日々、ニュースやインターネットを通して、嫌なものが目に入る。厄介なのは、耳を塞いで目を閉じたところで、自分自身から逃れることができないことだ。膨らむ嫌な想像、回転する被害妄想。頭の中でおこなわれる自分と仮想敵が切り結びに脳のリソースは使い果たされ、うまく小説を読むことができない。

 まあこれは、今回のパンデミック以前、去年あたりからずっと悩まされていたことだ。仮想敵が生れる種はミステリ研内にもある。誰かと繋がり続ける限り彼は生れ続けるのだろう。いまよりも楽にひとと接することができた中高生の頃が、いまは少しばかり懐かしい。

 

 W・G・ゼーバルト『移民たち:四つの長い物語』と東雅夫=編『平成怪奇小説傑作集〈2〉』を読み終えた。ゼーバルトは好むと好まざるとに関わらず、その主題と手法の点でずっと読みたかった作家だ。

 

 

  映画『若おかみは小学生!』を見た。映画そのものは、積極的に褒めることはしないが、総じて、とくに終盤は興味深い。ただそれとは別に、映画を巡る《わかっている大人》たちの(肯定的にせよ、否定的にせよ)態度が気になってしまった。もちろん《わかっている大人》とは皮肉だ。少女の選択を大人の態度だと言祝いだり、それは労働に人間性が剥奪されただけだと憤ったりする彼らが、本当にわかっているとは思えない*1

  すぐに名前が出てこなかったので《某》でごまかしてしまった。彼女はグローリー水領と云うらしい。

  改めて感想を見返すと、自分の問題意識に引き寄せすぎた感がなくもない。それのなにが悪い、と云い返せるほど、まだぼくの樹冠は強くない。

 

移民たち:四つの長い物語(新装版)

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平成怪奇小説傑作集2 (創元推理文庫)

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若おかみは小学生!

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*1:文脈を取り違えられる危険の比較的少ないブログと云う場に甘えて、少々攻撃的なもの云いをしました、正当だろうがなんだろうが刺々しい表現なのは変わりがないけれど