鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

日記:2020/05/20

 強いて書くべきこともない。それなりに愉快な家族の話があり、それなりに不愉快なニュースを見て、ZOOMで講義を受ける日々だ。ぼくは実家の居心地を良く感じられる人間なので*1大学図書館が利用できないこと、大型書店が遠いことさえ気にしなければ、いくらでも実家にいられる気がしてきた。

 が、もうすぐ下宿に戻るだろう。バイトもあるし、京都も少しばかり恋しい。

 それにしても、実家に《帰る》のだろうか。下宿に《帰る》のだろうか。

 

 緊急事態宣言の解除がテレビでも盛んに語られるようになり、一時期の絶望的な状況からは抜け出したかのような空気だ。医療現場の現状をぼくは知らないし、このパンデミックが収束したわけではない。まだまだ対策は必要だろう。遅かれ早かれ、第二波もやって来る。

 お上の云う《気の緩み》と云う言葉が癪に障る。緩めたのは、全国的な宣言を解除したあなたたちではないのか。国民の気を引き締め、あるいは緩ませる、その程度は自信と責任をもってやってほしい。第二波がやって来たとき、ぼくたちの《気の緩み》とやらを責める準備を進めているようにしか見えない。

 

 世界的に、様々な制限が緩みつつある。この状況が何年も続くのだ、と語られていた頃がもはや懐かしくなってきた。やはり世界は、人間は、あの緊張に満ちた時期に長く耐えることはできなかったらしい。これが一ヶ月後どうなっているのか――かなり切実に問いかけていた一ヶ月前とは異なって、いまは幾らか気楽にそう考えることができる。

 パンデミックは収束していない。噴出した無数の問題に解決策が打たれたとは思えない。感染者数が減りつつある現状は、嵐の前の静けさのように思えてしまう。だのに一時期よりも胸が軽いことに、ぼくもまた、このふてぶてしく脆弱な《人間たち》のひとりであることを実感する。

 

 東雅夫=編『平成怪奇小説傑作集〈3〉』を読み終えた。

 

 さて、もしこの記事を読んでいるあなたがミステリ好きなら、〈平成推理小説傑作集〉全3巻をどんなアンソロジーにするだろうか?

 早川書房からは7月に伴名練=編〈日本SFの臨界点〉が刊行予定だと云う。最近は〈10年代SF傑作選〉全2巻が出たばかりだ。筑摩書房からはアンソロジーシリーズ〈現代マンガ選集〉が刊行開始された。

 総括的な傑作選を編む機運が高まっている。ミステリが乗っかっていけない理由はないはずだ。

 

平成怪奇小説傑作集3 (創元推理文庫)

平成怪奇小説傑作集3 (創元推理文庫)

  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 文庫
 

 

*1:ぼくの周囲だけでも実家にいることに苦痛を覚えるひとがいる。それを不幸だと断じる真似はしたくないけれど、いざとなれば帰れる、頼れる場所がある自分は幸いなのだろう