一段落~一ページ(三〇〇~七〇〇文字)で、句読点のない語りを執筆すること(段落などほかの区切りも使用禁止)。
テーマ案:革命や事故現場、一日限定セールの開始直後といった緊迫・熱狂・混沌とした動きのさなかに身を投じている人たちの群衆描写。
提出作品
遠く遠くに発砲音が聞こえたあたりでとっくに逃げ出すべきだったのに悠長にもトマトを選んでいたから逃げ遅れてしまったけれどそもそも銃撃戦なんて郊外ではありふれたことだったしマーケットで爆発が起こるなんて考えもしていなかったってなぜってここは戦場じゃなくて生活の場じゃないかってそのはずだったろうそのはずだったんだってしかし確かに戦場になって銃声があちこちで鳴っているのも昔はひとが住む街だった誰かにとっての生活の場だったんだと気づいた頃にはもう遅く群れをなして駆け込んでくる人間人間人間人間人間の濁流がおそろしくってテロからよりもその波から逃げるようにしてトマトなんて取り落として駆け出せば追いかけるように急かすように銃声と爆発音が交互に鳴って止まらずみんな逃げながら口々に叫んだり助けを求めたりしているだってこんなはずじゃなかったんだってこれは国際問題になるぞってふざけるなって死にたくないって生きたいよ生きたいよ助けてよ何だってするからって思い思いに不満を叫んで懇願を唱えて命乞いを喘いでその声で余計に逃げたくて逃げたくてたまらなくなって足を動かしても濁流の渦に呑み込まれてすれ違うひとびとに肩を押され膝を打たれ背中を殴られてうまく身動きが取れないままちっとも流れは進みやしないからすこしばかり背伸びして頭を出すと後方右手からまた爆発音が聞こえて思わず立ち止まってそちらを向くとみんな巻き込まれて後退ってぱっくり開いた空洞の真ん中に上半身だけになった男が這いずってそのわきで小さな子供が泣き喚いていたのはきっと恐怖だけじゃなくて悲しみが多分に含まれているんだろうだってふたりとも肌の色合いだって目鼻のかたちだってそっくりじゃないかそんなことあっていいものなのかよって親子の無残な別れをとても見てられなくて爆発の外周へ外周へと逃げ出したみんなと一緒に走り出すとさっきまでの混沌が嘘のように明確な流れを作ってひとの波が動きはじめる唇が震える硝煙が香る拳を握る視線を落とす細かく素早くじれったく忙しなく動く足もとでさっき振り返りざまに踏み潰していたトマトの果肉が靴にこびりついてわずかに赤い
メモ
- 実は最初、一番最後から遡るようにして書いていった。半分くらい書いたらパーツを幾つかつくって、組み合わせるように書いた。そこで使用した膠の部分は取り付けが甘く、あなたが読んでいて違和感を覚えたとしたらそこである。
- 現在進行形なのか回想なのか、状況の描写なのか内省なのか、そのあたりの区別を、句読点を消すことに腐心しすぎておざなりにしてしまった。