鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

活動報告:2021年度前半

 今年は以前よりも「鷲羽巧」の筆名で活動することが多くなりそうです。所詮はアマチュアの身、活動報告なんてするのも烏滸がましいかなと思っていましたが、ミステリマガジンに名前が載っているのを見たら、twitterだけで諸々の告知を済ませるのは流石に褒められたことではないと考えました。せっかくblogもやっていることですし。
 以下、2021年度前半における「鷲羽巧」としての活動です。

 

小説「紙葉の街」:『玩具の棺』vol.5(止まり木館)

 おかしいでしょうか? と彼女は繰り返した。
 わたしは答えなかった。

 郊外の住宅地で起きた殺人事件。単純な強盗かと思われたが、被害者の部屋に置かれていた街の模型は、事件が単純に終わらないことを予感させた――。ロス・マクドナルドヒラリー・ウォーをコリン・デクスターで割ったような小説を目指しました。書きながら考え、考えながら書くと云う方法で執筆した作品で、全体としては完成稿と云うよりも何かの下書きのような半端な印象を残しますが、書かれているモチーフを踏まえるとそれはそれで味わいかも知れません。
〈止まり木館〉とはわたしの所属している文芸サークルで、ミステリ小説を中心として京都の大学生が創作活動をおこなっています。常にメンバーを募集しているとのこと。
 BOOTHにて電子版が販売されています。

tomarigikan.booth.pm

 

小説「夜になっても走りつづけろ」:『夜になっても遊びつづけろ よふかし百合アンソロジー』(ストレンジ・フィクションズ)

 言葉はあとから来る。あとに残るのが、言葉だ。
 要するに、言葉があれば、言葉以外は、前に進むんだよ。
 なあ、そうだろ。だから喋らなきゃいけない。そう云うもんだろ。そう云うもんなんだよ。そうじゃなきゃいけない。

 「あたし」は「あんた」に、拾ったヒッチハイカーのガキについて話しはじめる。荒廃したアメリカを、西へ向かって走る者たちの目的は――。シモン・ストーレンハーグ『エレクトリック・ステイト』を下敷きにしたロード・ナラティヴです。「よるかし百合」と云うテーマにあまりにそぐわないものを出してしまった、でも思いついて完成に漕ぎ着けたのこれしかなかったし……、と頭を抱えていましたが、結果としてアンソロジーの振れ幅を象徴するような一篇と受け止められたようで良かったです。おそらく自分の作品のなかでも、いちばん多くのひとに読まれ、反応された一篇ではないでしょうか。
 Kindleで絶賛販売中。売り上げはCOVID-19対策の寄付に宛てられます。

 

選書「京大生本読みのおススメ「アンソロジー」10選」:『大学生本読みがオススメする今読むべき小説10選』(tree)

挙げたアンソロジーのいずれも、ジャンルによって緩やかな統一を見せてはいるものの、たとえば「猫ミステリ」や「犬SF」のようには、明示的なテーマで縛られていません。かと云って、編者が一冊の本として編む以上、無造作に集められたわけもなく、そこには何かしらの編集方針、あるいは、ときとして編者さえも意図していない、並べられることで発生する作品間の共鳴が存在します。

 東大・京大・早大・慶大の文芸サークル会員が持ち回りで小説を薦める企画の一環で、「アンソロジー」をテーマに選書しました。「○○なアンソロジー」ではなく「アンソロジー」だけで素っ気ない理由は、『名作集』から始まって『ベスト・ストーリーズ』で終わる選書の意図を踏まえていただければわかるはずです。

tree-novel.com

 実は、最後の『ベスト・ストーリーズ』は差し替え後の選書。当初の予定ではスティーヴン・ショアー編の写真集『写真の本質』を挙げる予定でした。流石に小説でないのを紹介するのは難しいと云うのと、本自体が入手困難となっているため、『ベスト・ストーリーズ』に変えた次第。改めて振り返ると、こちらの方がよくまとまったリストになっているように思います。
 とは云え、折角書いたのですから初稿での紹介も載せておきましょう。

『写真の本質』
 最後にやや趣向を変えて、写真集を。本書は写真家スティーヴン・ショアーが、古今の写真を取り上げながら、写真とは何か、写真を鑑賞することはどのような経験なのかを思考する一冊です。フォーカスやフレームの技術的な問題から、鑑賞者の五感と精神の問題にまで至るショアーのテクストに導かれながら写真を見てゆくことで、写真を「見る」と云う営みそのものが更新されてゆく――。その鑑賞体験は、いままで紹介してきたアンソロジーの読書体験にも通じるものだと思います。

 

ハヤカワ文庫JA総解説ミステリ篇PART2:『ミステリマガジン 2021年11月号』(早川書房

 ハヤカワ文庫JA全点の解説をする特集企画に参加しました。解説を担当したのは以下の3作品。

 JA全体で見るとマイナー寄りのタイトルですが、知名度の低さは作品が面白くないと云うことを意味しません。各作品の読みどころを示すような解説を心がけました。今後の読書の参考にしていただけると幸いです。

 

 2021年度後半にも、所属している京都大学推理小説研究会の機関誌『蒼鴉城』に作品を載せるほか、いろいろ報告できる活動があると思います。……わたしがいまblogを書く手を止めて、〆切までに原稿を書き上げさえすれば。