鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

文章練習:2021/12/10

説明
  1. 写真に何が写っているのかを書く
  2. 出来たものを半分くらいまで削る
書く

 埃っぽいと感じた。けれどたぶんそれは、店内に充満する酒気を帯びた呼気と、換気の効いていない澱んだ空気、大人たちのよく意味のわからない会話、声、喧噪、そのなかでひとり紛れ込んでしまった子供にとって怖ろしくてたまらないその場における緊張から来る息苦しさを、細かな粒子として感じていたに過ぎない。酒を飲む店として最低限を設えただけの店内を、過剰に明るい蛍光灯が皓々と照らす。男たちはみな着古したジャケットに履き古してぼろぼろのジーンズ、それによれよれのカウボーイハットと云う出で立ちで、彼らに紛れてごく平凡なシャツ姿の父親を少年は信じられなかった。父の手を握る。父はその手を握り返すけれど、相変わらず視線は店の真ん中に向けている。男たちの胴の隙間から少年は、父親と同じものを見る。カウボーイハットの男たちのなかでいちばん図体の大きい、蛙のように縦に潰れた顔の男が両手をジーンズのポケットに突っ込んで仁王立ちしている。彼が誰を見つめているのかわからない。観衆の会話はがなり立てるように大きすぎるか囁くように小さすぎるかのどちらかで、いまなにがどうなっているかも把握できない。ただ厳めしい蛙男と彼に相対する誰かとの間がまるでリングを作るように空白になっている。誰かが囃し立てる。周囲の男たちの体温が上がったのがわかる。暴力が始まる、と少年は思う。(568字)

削る

 埃っぽいと少年が感じたのは錯覚だ。充満する酒気と澱んだ空気、男たちが交わすスラング塗れの会話、そして自分の緊張から、息苦しいと感じたに過ぎない。吊された蛍光管が白々と光る。男たちはみな着古した革のジャンバーにジーンズ、カウボーイハットと云ういでたちで、シャツ姿の少年と父親は場違いだった。少年は父の手を握る。父はその手を握り返すけれど、視線は店の真ん中にやったままだ。男ふたりが相対し、大勢の客がふたりを取り囲む。並ぶ胴と胴の隙間から少年にも一方の男が見える。蛙のように潰れた顔で正面を睨みつけている。観衆の会話はがなり立てるか囁くかの両極端で、少年には状況が理解できない。誰かが囃し立てる。空気が熱を孕む。暴力がはじまる、と少年は思う。(319字)

反省
  • 写真の持つ緊張と、どこか懐かしい感覚を、今回は程良く文字に起こせたのではないだろうか。
  • 削ったところで良い文章になっているのか、わからなくなってきた。
出典

Robert Frank, Bar - Gallup, New Mexico, 1955.

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