鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

文章練習:2021/12/12

説明
  1. 写真に何が写っているのかを書く
  2. 出来たものを半分くらいまで削る
書く

 玄関の呼び鈴を何度押しても応答はなかった。ガレージには車も駐められているし、家の明かりはついている。居留守と云うには住民の存在を隠そうともせず、来訪者を拒もうともしていない。たまたま応答できていないだけ、と云う気配があった。もう一度呼び鈴を鳴らし、誰も出てこないことを確認すると、わたしは家の裏庭へ回った。家が大きければ敷地も広い。白ペンキが半ば剥げている柵が腰ほどの高さでずっと長く続いていた。ようやくたどり着いた裏木戸から覗いた庭は、はじめ廃園に見えた。低木と雑草が区別なく所狭しと茂ってひとの立ち入る隙間がない。けれども野放図に生えているわけではないようで、緑の濃さや樹の配置には何らかの意図に基づいた秩序が見受けられ、だからこそ棄て置かれたかつての庭園に思われたのだ。砂漠に生える植物のような硬く厚い葉が侵入を拒むように刺々しく伸びている。ガラスの漬物瓶が六つ、ひっくり返されて列をなして並べられ、しかしそれで区切られていたはずの植物はあたりを埋め尽くして境界を侵しつつある。庭の奥、つまり家の裏口近くで、廃車が木々に隠れていた。ウインドウが取り外され、塗装も剥げて、外殻だけ残った空っぽの車だ。その手前に伸びた枯れ木の枝に星条旗が引っかけられていた。その下に、目当ての住人がいた。くつろいだ格好の、禿頭の男。どうやら廃園ではなかったらしい。庭の主人は庇代わりにかけているもののほとんど垂れ下がってしまっている星条旗に包まれるようにして、寝椅子に横たわっている。近くにはカウボーイハットと、応接用の家具や椅子もある。けれどやはりそのすべては背後の廃車のように、伸びやかに繁る植物たちに圧されるがまま、深い緑のうちに溶け込んでしまっていた。(723字)

削る

 居留守と云うにはひとの気配を隠していなかった。明かりも点いている。たまたま応答できていないだけだろう。もう一度呼び鈴を鳴らして反応がなかったので、裏に回ることにした。ペンキの剥げかけた柵をずっとたどってようやくたどり着いた木戸から覗いた裏庭は、低木と雑草が所狭しと繁って立錐の余地もない。ただし植物の種類や配置には一定の意図が見受けられ、棄て置かれたかつての庭園と云ったふうだった。硬く厚い葉がひとの侵入を拒むように刺々しい。ガラスの漬物瓶が六つ、仕切り代わりにひっくり返して並べられ、しかし雑草はあたりを埋め尽くしてその境界を侵しつつあった。庭の奥で外殻だけの廃車が木々に隠れている。その手前に伸びる枯れ木の枝から星条旗が吊され、それに庇われるようにして禿頭の男が寝そべっていた。庭の主人らしかった。よく見れば近くに帽子や家具もある。けれど彼を含めてそのすべては背後の車と同じく、濃緑に圧されるまま庭のなかに溶け込んでいた。(413字)

反省
  • 植物の名前を書き込みたいのだけれど、写真からでは同定できない。できるのかも知れないが、ぼくにはそこまでの知識がない。
  • ふだん小説を書くときも「樹」で済ませてしまいがちだ。植物の名前を知っていても、描写のなかで使いこなすことができない。
出典

Robert Frank, Backyard – Venice West, California, 1955-56.

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