鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

文章練習:2021/12/16

説明
  1. 動画に何が映っているのかを書く
  2. 出来たものを半分くらいまで削る
書く

 雨のなかを自動車が走っている。フォルクスワーゲンのタイプ1。またの名をカブトムシ。木立を突っ切る道は舗装されていない。街灯もない、夜明け前の暗闇をふたつのフロントライトだけが照らす。絶え間なく地面を叩きつける雨粒が跳ねるさまがぼんやりと浮かび上がる。雨粒は車体を濡らし、外殻を、ウインドウを滑ってゆく。
「おはようございます、日曜の午前六時です」カーラジオがニュースを告げる。
 フロントガラスがぐちゃぐちゃに濡れて視界が効かない。ワイパーは空しくガラスの表面を掠めるだけで、かえって邪魔なくらいだ。運転手の男は足許からタオルを掴んでウインドウを拭くけれど、もちろん何の意味もない。ただの気休めだ。男は肩をそびやかせ、肘を曲げ、ぎゅっと握りしめたハンドルに顔を近づける。緊張していた。ただでさえ凸凹の路面は泥になって滑りやすい。
 曇り、潤み、ぼやけたガラスの向こうに、バス停が見えた。緑と茶の風景に赤と白の縞模様をしたポールが目立つ。近くにはひとひとり坐っていられるかどうかと云う木造の粗末な掘っ立て小屋があった。木立の枝葉が被さった片流れ屋根を雨が伝い落ちて、小屋の開かれた一面に滝をつくっている。そのなかに女がいた。
ベトナムで南北の軍が烈しい武力衝突を――」
 男は女を見た。女は濡れるのも構わずに掘っ立て小屋から飛び出す。緑と白の二色で縦にぱっくり二分されたワンピースと、肩までかかる赤毛がびしょ濡れになってぴったりと肌にくっついていた。大柄な女だ。車の通り過ぎざま、彼女は逃げるように飛び出したのですれ違いになって顔は見えなかった。男はサイドミラーを見た。車体のわきから飛び出した銀縁の円い鏡のなかで、道の両側を鬱蒼と繁って挟む木々のなか、女の背中は一瞬何かを探すように僅かにふらつきながら立ち尽くし、すぐにまた小屋へと駆け込んだ。(765字)

削る

 雨のなか、暗い木立を彼はビートルで抜けようとしていた。舗装もされていなければ街灯もない道を、ふたつのライトだけが心許なく照らす。雨粒が土を濡らし、車体を打ち、ウインドウを滑る。
「おはようございます」カーラジオでニュースがはじまった。「日曜の午前六時です」
 フロントガラスが濡れる速さにワイパーが追いつかない。視界を掠めるぶんかえって邪魔だ。彼はタオルを掴んで内側からウインドウを拭いた。ただの気休めだった。凸凹の路面は泥だらけで滑りやすい。彼は緊張し、ハンドルをぎゅっと握りしめた。
 ぼやけたガラスの向こうに赤と白の縞柄のポールが見えた。バス停だ。隣には粗末な木造小屋もある。屋根を雨が伝い落ち、入り口で滝をつくっている。そのなかに女がいた。
ベトナムで南北が烈しい武力衝突を――」
 すれ違いざま、彼は女を見た。女は道路へ飛び出した。緑と白で縦に二分されたワンピースと豊かな赤毛がびしょ濡れになって肌にへばりついた。大柄だった。彼はサイドミラーに目を移す。円い鏡のなかで、彼女の背中はつかの間何かを探すように立ち尽くし、また小屋へと駆け込んだ。ついに顔は見えなかった。(481字)

反省
  • 今回は趣向を変えて動画で。小説の実践にかなり近づいた気がする。
  • 削れば密度が上がると思っていたけれどそうでもないらしい。
  • うーん。文章は巧くなっているのか。
  • ただ、書いた文章をいちから検討し直す練習にはなっている。
出典

『新米刑事モース――オックスフォード事件簿』第1話「新米刑事、最初の事件」より。面白いドラマなのでオススメです。