鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

日記:2022/07/18

三年が経つ。世界はずっと前に壊れており、いまも壊れ続けている。



昼前に起きる。ブランチを済ませて大学の図書館に行く。資料にあたりながらレポートを書こうと思っていたが、あいにく閲覧席は満杯だ。代わりに本を何冊か借りて、喫茶店に行く。レポートの充実を犠牲にする決意を固めて、講義資料をざっと見直す。午後の大半はその店で過ごす。



借りたのは今福龍太の『原写真論』。今福の文体は小説や研究として読めばうんざりする類いのものだが、文章そのものは、その麗々しくも囁くように低いトーンとが癖になる。《どの一瞬にも、歴史が傍らをよぎってゆく音が静かに鳴り響いている。》



一篇だけつまむつもりで読みはじめた小野不由美『営繕かるかや怪異譚』を、一気に読み終えてしまう。論理と怪異、人間と幽霊、両者の接続とバランスが絶妙だ。とくに気に入ったのは「異形のひと」で、怪異が出現すると云う構図自体を反転させてしまう真相が鮮やか。何より自分は、少年少女が理解ある大人と出会うくだりに弱い。パターナリズムと云うならば云え。理解のない大人に踏みにじられた経験は、子供の心に強い傷を残すものだ。



茶店を梯子して夕飯を食べる。ポイントカードを作るかどうか訊かれ、しばらく迷って断る。これまでもそれでずっと損をしてきたし、これからも損をし続けるのだろうと思う。