鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

ノート

偶然を記憶すること:東浩紀『平和と愚かさ』を読んで

歴史を生きたいとは思わない、歴史的な時代を生きたいとは。わたしの小さな命は、そういうとき、たちまち無防備になる。偉大なできごとは、小さな命に気づかず、それを踏んづける。立ちどまりもせずに……。(じっと考える)わたしたちのあとに残るのは、歴史…

アリバイと胃袋:大山誠一郎〈アリバイ崩し承ります〉シリーズにおける〝食事〟について

(※この記事では、『アリバイ崩し承ります』および『時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』の収録作品について真相を明かしています。また、敬称は略しました) 大山誠一郎の〈アリバイ崩し承ります〉シリーズは世にも珍しい、アリバイというテーマで統…

答えは「あなた」:『都市伝説解体センター』感想

「世界」はどこまで広がっているのか、われわれの手はどこまで届くのか、あるいは、見知らぬものの手が知らぬ間にわれわれに触れているのではないか。そんな問いに、推理という道具を変容させながら答えてゆくこと、それが現代の本格ミステリの前線であろう…

暗号と暗合:青崎有吾『図書館の殺人』について

※この記事は青崎有吾『図書館の殺人』(東京創元社刊)の真相と結末に触れています。 メッセージを読み取ること、それ自体が謎であり主題となる点で、ミステリにおけるダイイングメッセージは暗号の一種として含まれるだろう。けれども一方で、ダイイングメ…

《操り》と《身を捧げる》こと:米澤作品の《職業人》について(『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』演習課題)

この半年ほど、こう云う勉強会に参加していました。 #文学フリマ東京40 に参加します2025.5.11(日)️東京ビッグサイト南1〜2ホール M-37 https://t.co/kIQiMmFOvS阿部幸大『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』をもとに勉強会をし、その成果…

論理・世界・逆説:あるいは狂人の論理について、幾つかのこと

「おいらは、犯人は狂ってました、って結論でもいっこう構わない。しかし、その〈ある意味で〉というやつが知りたいんだ。人はわけのわからない事件に出合うと、みな、狂人のやったことでしょう、で済ませてしまう。おいらが知りたいのはその先だ。狂気には…

彼らが動き出すとき:アニメ『小市民シリーズ』について

ときに最大のトリックは、何かがトリックでしかないと主張したり、容易にそれを暴くことができると主張したりすることのうちにあるのだ。――トム・ガニング『映像が動き出すとき』*1 云うまでもないことだが、米澤穂信は言葉と云うものに注意を払い続ける作家…

すべての見えない都市:イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』について、五十五のメモ

イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』(米川良夫訳、河出文庫)を読んだ。大いに感銘を受けた。具体的な感想はまたどこかで書くとして、ひとまず、生涯最良の小説のひとつに挙げて後悔はないだろうと思う。けれどもそれほどに素晴らしい小説なのに読んだ端…