鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

【書評再掲】絶望の連鎖を絶て:オキシタケヒコ『筺底のエルピス』

祝、最終巻発売。せっかくなので以前『綴葉』に書いた書評を再掲します。 古来より《鬼》と呼ばれてきた存在――《殺戮因果連鎖憑依体》。人に取り憑き、殺し合いを駆り立てるそれは、人類の絶滅を目的とする悪意の権化だ。かつて鬼に家族を殺された少女・乾い…

【書評再掲】歴史学、それでもなお:松沢裕作『歴史学は世界を変えることができるか』

著者の松沢先生のツイートに触れ、そう云えば前に書評を書いたな、と思い出したので再掲。よい本です。 世界を変える、とは大きく出た。けれどもこの問いを投げかける著者の態度はいたって真摯かつ謙虚である。史料を読み、何ごとかを語る――歴史学にできるこ…

あたらしきかなまりにいれたる:『負けヒロインが多すぎる!』9巻と「聖地」について

あてなるもの。薄色に白襲しろがさねの汗杉かざみ。雁のこ。削り氷に甘葛あまづら入れて、あたらしき金鋺かなまりに入れたる。水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪のふりかかりたる。いみじううつくしき児ちごの、いちごなど食ひたる。――『枕草子』第四十段 (※…

卵と馬:ガリヴァー、原民喜、西東三鬼

「わしが言葉を使うときにはな」ほんとうにばかにしきった口ぶりで、ハンプティ・ダンプティが言いました、「わしがそれに意味させたいと思うものをそれは意味する――それ以上でもそれ以下でもない」「問題はね」とアリス、「言葉にそんなにいっぱい、いろい…

【書評再掲】やがて過去になるいまのために:雨森たきび/いみぎむる『負けヒロインが多すぎる!』

9巻発売記念、『綴葉』の書評再掲です。 最近、ライトノベルを読み始めた。理由はいろいろあるけれど、気晴らしになるというのが一番だ。良い意味で軽く、すいすい読めて、面白い。わけても最近のお気に入りは、雨森たきび著/いみぎむる絵『負けヒロインが…

ミステリ、それでもなお:人新世、ハンナ・アレント、『オルゴーリェンヌ』

「なあ、君たちの出した答えは本当に正しいのかい? 焦って結論を急いでいるんじゃないか? ゆっくり話し合う間もなく逃げ続けてきたんだろう。何がどう絡まって、こんなことになっているのか、きちんと自分たちで理解しているのかい?」 祝・『石球城』刊行…

【書評再掲】わたしたちを取り囲む権力:藤原辰史『食権力の現代史』

正義がひっくり返りかねない世界にあってもなお、飢えた者に食べものを分け与えることは正義である――アンパンマンの原点にこうした哲学があることはよく知られているが、その伝でいけば、意図的に誰かを飢えさせることは絶対的な悪であるということになる。…