その他
イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』(米川良夫訳、河出文庫)を読んだ。大いに感銘を受けた。具体的な感想はまたどこかで書くとして、ひとまず、生涯最良の小説のひとつに挙げて後悔はないだろうと思う。けれどもそれほどに素晴らしい小説なのに読んだ端…
一つひとつの行為を通して、我々は自分の伝記を書く。私が下す決断一つひとつが、それ自体のために下されるだけでなく、私のような人間がこういう場合どのような道を選びそうかを、私自身や他人に示すために下されるのでもあるのだ。過去の自分のすべての決…
「モーリス、モーリス、どうか希望を捨てないで」 ――グレアム・グリーン『ヒューマン・ファクター』(ハヤカワ文庫epi) これはフィクションだ。そのつもりで。 昔の話だ。まだきみが科学少年の、ついに孵化することのない卵でしかなかった頃、家族とどこか…
いろいろと思い出したことなどを、断片的に。 先日、Fridays For Future Kyotoによる気候変動についての交流会に参加した。久しぶりにひとと会う活動をしたので足を動かしただけでもう気力が残って折らず、後半のマーチには参加しなかったけれども、交流会に…
前回、前々回からのつづき。 washibane.hatenablog.com washibane.hatenablog.com 語りすぎている。いい加減終わらせたい。 どこまで? トイレだったことはよく憶えている。ぼくがその推理を思いついたのは、実家のトイレの便座に腰掛けていたときだった。何…
前回の続き。 washibane.hatenablog.com どこへ? 趣向をとりあえず考え、犯人を警官とすることまで考えたので、次に具体的な推理・手がかりを考えることになる。が、正直、あれこれ書いては消してみて、正確なところはやはり憶えていないと云う結論になった…
小説を書くときに何を考えていたかと云うものは所詮後付けに過ぎず、文章を綴る、鉛筆を走らせるその一秒、文字を打鍵するその一瞬に何を考えていたかと云えばそのとき書いている文章以外にはないはずで、つまり、小説を書くときに考えていたことが小説であ…
今福龍太『原写真論』を読んだ。主として今世紀に書かれた写真論を集成したもの。総じて面白く読んだけれど、ポストコロニアリズムについて著者のある種楽観的な態度と、ラテンアメリカや沖縄をめぐるシリアスな現状とのあいだで軋みを上げているようなもの…
ジャンル論なんていくらでも反例が生えて来るのだから、トップダウンで考えるより具体的な作品の検討からボトムアップで構築した方が妥当なものができると思うが、しかし考えてて楽しいのは圧倒的に、デカい話の方である。 ある土地のある時代の銃取引につい…
パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ:二〇世紀概説』(エクス・リブリス)を読んだ本に追加→ bookmeter.com 短くも濃密で、凄惨にして滑稽な二〇世紀史。あるいは、二〇世紀史を語らないことによって二〇世紀史を捉えようとする試み。高く、高く、高…
日記の代わりに。 (面接が)終わりー。 魚(うお)~♪ 魚魚~♪さあ輪になって食べよー♪かーわーざーかーなー♪締めて食べるかーらー♪ 「世の中興奮することっていっぱいあるけど、やっぱり一番興奮するのはみすず書房の近刊案内見てる時だよね」「間違いないね…
8時に起きる。30分ほどだらだら。このだらだらとした時間がいちばん良くない。それはわかっている。 一限をzoom講義で受ける。先生が慣れていないからか、誰かがマイクミュートにしていないせいでずっとがさごそと朝の生活音が聞こえるからか、何もわからな…
三年が経つ。世界はずっと前に壊れており、いまも壊れ続けている。 昼前に起きる。ブランチを済ませて大学の図書館に行く。資料にあたりながらレポートを書こうと思っていたが、あいにく閲覧席は満杯だ。代わりに本を何冊か借りて、喫茶店に行く。レポートの…
ツイートする代わりに日記を書くことにする。続けられるように続けるつもりなので、毎日は更新しない。飽きたらやめる。 8時半にはいちど目を覚ますが、もう一度寝たりだらだらと転がったりしているうちに午前10時前になる。朝ごはんは食べない。この数ヶ月…
何かを考えたいときは散歩する。何かを考えながら散歩するときに公園が目に入ると立ち寄る。そこにはたいていブランコがある。両脚をピンと伸ばして、勢い良く漕ぐ。振り子の周期をその身で感じながら、何かを考える。多くの場合、それは夕暮れから夜中だ。…
こうなる。パワーズの出来損ないみたいだ。 きのうきょうと書き進めていたが、お話の方がどうにも掴めない。 その報せを、わたしは早朝の東京駅で受け取る。父の死。音にしてたった四文字。ひと影の疎らなプラットホームで、すべてが静止したかのように灰色…
進捗がない。 「開けなさい」 ノックと云うにはあまりに激しい、こぶしが扉を撲る音。窓の鎧戸が下ろされ明かりも落とした部屋、立方体にぴたりと詰まった暗闇のなかで、少年は布団を頭から被る。両手で耳を塞ぎ、ベッドの上に壁を向いて蹲る。瞼を閉じる。…
駄目になっていた。ひとと話すときはいつもの調子に戻るのだが、ひとりになると駄目になってしまう。ただ、用事がない限り出席しようとしていた読書会を、駄目になっているうちに無断欠席してしまった(スマホもまったく見ていなかった)ことをうけて、流石…
実家、と云っても賃貸なのだけれど、年内に引っ越すと云う。既存の家に移り住むのか、新しく土地を買って建てるのかはまだわからないが、実家を離れることは決定したらしい。同居していた祖父母は何年も前に亡くなって、息子ふたりが曲がりなりにもそれぞれ…
まえがき 「『少年サンデー』を毎週読んでいる」 そう云うと、初めて聞く相手は大概驚く。どうも自分は、漫画を、とりわけサンデーを購読するような人間には見えないらしい。確かに、自分の趣味の傾向からしても、その発想は不自然なものではないし、自分自…
国内と海外からそれぞれ50篇ずつ、独断と偏見で選びました。ジャンルは不問(ただし、ミステリとSFがほとんど)、順番は適当で、一作家一作品ずつ。 【凡例】作品名/作者名(所収誌) 藪の中/芥川龍之介(青空文庫で公開) 本陣殺人事件/横溝正史(同題短…