鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

2020-01-01から1年間の記事一覧

2020年下半期ベスト

「簡単なことです」耳を傾けるすべての人に向かって、世界中のタッサ・アムズワールが声をそろえる。「私たちはもっと良くなる必要などありません。私たちはすでに私たちだ。そしてすでにある全てのものは私たちのものです」 ――リチャード・パワーズ『幸福の…

読書日記:2020/08/24

前回の続き。 『キスギショウジ氏の生活と意見』草上仁 単行本未収録作品に書下ろしを加えたものなので、新刊ランキングの対象圏内。ミステリのそれにも顔を出せるクォリティの短篇集で、実に楽しかった。 信じられないのは、「傑作選ではない」と云うこと。…

読書日記:2020/08/23

なんだか気分が乗らなくてブログを更新していなかった。比較的暇な時間である夜はYouTubeでポケモンのゆっくり実況とかを眺めていた。人間の生の声・息遣いが直接聞えるゲーム実況は申し訳ないがよほどの美声でなければ(つまり声を職業にしているわけでもな…

読書日記2020/08/11

感情をむきだしにした議論の際によくあるように、事実にのみ気を取られて興奮し、それゆえ事実をゆがめることもあえてしようとするある集団の現実的な利害は、それとは反対に事実にはいささかの興味も持たず、事実を単に〈観念〉への跳躍台と見なす知識人の…

読書日記2020/08/05

前回の読書日記が微妙に拡散されたらしい。念のために書いておくと、ぼくはまったく体系立てて読まないひとを批難するつもりはない。体系立てて読むべきだと強制もしない。自分の体力・気力・趣味嗜好と相談しながら、好きに読めば良いと思う。ただ、読んだ…

読書日記2020/08/03

伴名練=編『日本SFの臨界点』の[恋愛篇][怪奇篇]を読んだ。ナンバリングしていないのはあわよくば続篇を出そうとしているからだろうか。 このところしばらく、小説を読むことができない、なにが面白くて小説を読んでいたのか思い出せない、と云う状況が…

リュックサックのなかのきかんしゃトーマス、ものを詰め込むことが得意な母、あとグレアム・グリーンや瀬名秀明についていくつか

その日の朝、背伸びして書棚のいちばん上の段に初めて手が届きました。グレアム・グリーン全集がそこに並んでいて、私は黒い背の部分にこうして指先を引っかけて、重力の助けを借りて手元に落としました。――瀬名秀明「希望」 子供の頃から荷物を詰めるのが苦…

2020年上半期ベスト

ご無沙汰しています。近況報告の代わりに、2020年上半期に読んだ本のベストを挙げます。いつも通りならここに短い感想を付けるのですが、いまはその気力がありません。 いろいろなものから距離を取って、最近は比較的心穏やかに過ごしています。ときおり、怒…

日記:2020/06/01

授業が始まってバイトも再開してそれでも本を読んでいると日記を書く時間がなくなる。いや、日々に無駄な時間は多いのでそれを削ればなんとかなるのだろう(さっきも半時間くらいぼうっとtwitterを眺めていた)、やはり問題は時間ではなく、気力である。バイ…

日記:2020/05/24

緊急事態宣言が解除されつつある。パンデミックが収束したわけではないし、そう遠くない未来に第二波が来ることが予想されるものの、最初の大波をとりあえず最悪の事態になることなく乗り越えられたらしいことには安堵する。「吉備津の釜」よろしくのぬか喜…

日記:2020/05/20

強いて書くべきこともない。それなりに愉快な家族の話があり、それなりに不愉快なニュースを見て、ZOOMで講義を受ける日々だ。ぼくは実家の居心地を良く感じられる人間なので*1、大学図書館が利用できないこと、大型書店が遠いことさえ気にしなければ、いく…

日記:2020/05/18

実家に帰った途端、体調はずいぶんマシになった。自分の部屋を取り返せたのも理由だろうが、やはり下宿との大きな違いは、誰かとの接触、それにともなう単調な毎日の揺らぎだろう。 あまりにも予定を崩されると苛立つこともあるけれど、こちらから積極的に調…

日記:2020/05/15

午前中は講義の時間だったけれど資料だけ配って質問だけ受け付ける類いのものだったので眠りを貪っていた。ここ数日、疲れがうまく癒やせない。寝られるだけ寝たはずなのに起きたら身体はかえって疲れていた。 昼食を食べてから書店に行った。三条の丸善。エ…

日記:2020/05/13

一日が早い。毎日2~3コマ入っている講義に時間が吸い取られる。試験ができなくなったから出席確認を兼ねた小レポートも増えた。きょうもこれを書き終えたら課題をやらなければならない。とっくに《2020年度前期》ははじまっているのだ。だのに基本は家にい…

日記:2020/05/10

きのう実家から下宿に帰ってきた。母親はずっと家にいてくれて良いと云ってくれて、誇張ではなく涙が出るほどありがたい話ではあったけれど、それでも帰ってきたのは、ひとつには母親がやはり無理をしているようだったからだ。テレワークしている父親のスケ…

日記:2020/05/08

オンラインでの講義が始まったけれど案の定身が入らない。漠然と話を聞き流しながらあとで資料を読む、では二度手間なので両者を同時にこなしたいもののそれは本来普通の講義でもこなして当然のことである。 いま《普通》と云った。果たしていまの状況が《普…

日記:2020/05/06

昨夜は1万字超えの長文記事を投稿したのでもう日記を書く気力はなかった。あらためて読み直すと当初の目論見はおおむね達成されているように思う。惜しむらくは、SFまで挙げる余裕がなかったこと。『なめらかな世界と、その敵』や『死の鳥』なども入れられる…

ミステリ研新入生に薦める20選

何も急ぐことはありません。生長を待たなくてはなりません。じっくり育ってゆかせなくてはなりません。やがていつかその時が来たら、立派な作品ができるというのなら、それに越したことはありません。 わたしたちは探求してみなくてはなりません。そのために…

日記:2020/05/04

実家内隔離生活が終わった結果、家から居場所がなくなった。すでに書いた気もするけれど、もともとあったぼくの部屋はなんと云うことでしょうすっかり父親のテレワークスペースに改装されており、いままで使わせてもらっていた兄の部屋も晴れて兄のものへ戻…

日記:2020/05/03

実家での隔離状態が終わった。居間にいてもマスクしなくて良くなり、同じ卓を囲んで食事ができた。ひとり盆にご飯を載せて食卓から離れるのはそれはそれで面白かったけれど、やはり誰かと一緒にとる食事は良い。きょうは母お手製の揚げ物が卓を埋めた。わが…

日記:2020/05/02

曜日感覚も日付感覚もなくなっているがついに季節感覚も狂ったかと思われるほど暑い。換気がてらに窓を開けたら余計に暑くて参ってしまった。 もしもこの騒動がなければ「今年の春はもう夏だねえ」などと笑い合えていたのかも知れない、などとたらればを考え…

日記:2020/05/01

小学生だったときの夜は、兄が弾くギターとともにあった。当時ぼくたち兄弟は同じ部屋を使っており、さして広くもないそこに二段ベッドを押し込んで勉強机がふたつ押し込まれていたけれど、ぼくも兄も机を勉強のために使うことはめったになく、ぼくは居間で…

日記:2020/04/30

昼に食べたのは冷製うどんで、その冷たさと云うよりはぬるさとろくに麺と絡んでいないツユの味に、特にすることもないのにわざわざ電車で学校まで行ってガラガラの食堂で冷やしきつねうどんを食べていた高校2年の夏休みを思い出した。過去を懐かしむ方ではな…

日記:2020/04/29

実家に帰ってからこっち、曜日感覚どころか日にちの認識が消えた。きょうが水曜日であることも、祝日であることも、29日であることもわかっていなかったのだ。単調な日々は穏やかだけれど、それは本当に穏やかと云うよりはもろもろを忘れたからであり、精神…

日記:2020/04/28

昼にラーメンを食べたことくらいしか書くことが思い当たらない。ほかにもいろいろあるにはあったが、ここに書いて公開するのは躊躇われる。 自分で引いたラインを自分で引いて自分で不快な思いをして、ざまあない。

日記:2020/04/27

実家に帰ってからずっと引きこもって本を読んでいる。京都にいた頃は一歩も外に出ないと息が詰まる思いがしたもので、この変化は興味深い。誰かと一緒にいられるからなのか、単に環境が変わったからなのか。蓄えに何かと余裕があるのも良いのかも知れない。…

日記:2020/04/26

『20世紀の幽霊たち』を読んでいたら一日が終わった。そんな馬鹿な。しかも読み終わらなかった。そんな馬鹿な、とは云えない。700頁近い分量なので。 きょう読んだ分では、「ポップ・アート」「挟殺」「寡婦の朝食」「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」…

日記:2020/04/25

実家に帰省した。少なくとも大学の講義が始まるか、図書館が開くまでは実家にいると思う。 昼過ぎ、親が迎えに来た。着替えや本で荷物はやたら嵩張った。二、三週間ではとても読み切れない量の本に、勉強するかどうかもわからないのに殊勝にも教科書の類いを…

日記:2020/04/24

きょうは何かあった日、きょうは何もなかった日、と判断する境界線はどこだろう。何もない日などありはしないし、何かがあるとはどう云うことなのかも曖昧で、要するに一日の終わり、こうして日記を書く段になってふと抱く感情の如何によるのだろうけれど、…

日記:2020/04/23

週末、実家へ帰ることになった。帰ったところで隔離されるらしいけれど。大学もいよいよ閉まるかと云う時勢なので、とは云えありがたい。帰ることができることが。帰ることができる場所があることが。 夕食中、昨年通りであればいまごろは新入生歓迎の季節で…