鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

2019-01-01から1年間の記事一覧

2019年下半期ベスト

年間ベストは例年、31日24時まで粘るのですが、今年は時間が取れるうちにちゃっちゃと済ませようと思います。いま読んでいる本はたとえ年内に読み終わろうと、2020年読了本扱いです。 それでは始めます。国内外・フィクションノンフィクション問わず、長篇(…

局所的な人間の関係性もまた面白いが、そんな些細なものを呑み込んで世界は続いてしまうと云う感覚がある。人間と云う小さなものが大きな歴史の濁流を形成していく、あるいは、大きな歴史の濁流が人間と云うちいさなものを蹂躙してしまう、そう云う感覚。そ…

銃口はどこを向いているか:『天気の子』について、その2

(本稿は映画『天気の子』の内容に言及しています) 雨音は強まり、拳銃は私たちから離れた場所で西の方角を向いていた。それがいまの時点における、いわば明後日の方向だった。 ――瀬名秀明「希望」 拳銃についての幾つかのこと 前回は東京の話をしました。 …

東京に食べられて育った:『天気の子』について、その1

(本稿は『天気の子』の内容に詳しく言及しています) 雨降りしきる灰色の東京が、はじめに映されます。 それは雨の情緒さえ感じられず、風流などと云っていられない、じめじめとして暗い、現代における都市の雨です。広大で無機質なビル群がけぶる様は、な…

『天気の子』以前としての『君の名は。』再考

(この記事は『天気の子』の感想をまとめるにあたってその冒頭に置こうとしていた「『君の名は。』再考」の章が肥大化したため独立させたものです。ゆえに、両作品の内容に触れています) www.kiminona.com 『天気の子』を観たあと、『君の名は。』をおよそ3…

2019年上半期ベスト

上半期が終わるのを1か月早く勘違いしていた気もします。気のせいかも知れません。いずれにせよ6月が終わったので、今年読んだ作品の中からベストを挙げていきたいと思います。国内海外問わず、長篇(および短篇集)と短篇で20作品ずつ、順不同です。 長篇(…

小森収『短編ミステリ読みかえ史』第116回のハーラン・エリスン評に対する批判

半年も前の記事にいまさら文句を付けるのもうざったらしい真似ですが、しかし『愛なんてセックスの書き間違い』がめでたく刊行され、『危険なヴィジョン』完全版がこれまためでたく刊行される運びとなり、ハーラン・エリスンがにわかに盛り上がりを見せ始め…

読書日記2019/05/15 エラリイ・クイーン『フォックス家の殺人』

アメリカの田舎町ライツヴィルはにわかに沸き立っていた。この町に生まれ、第二次世界大戦で活躍した英雄――デイヴィー・フォックス大尉が帰還したのだ。しかし、彼を褒めそやし祭り上げる周囲に反して、デイヴィー自身は自らが犯した殺人の罪と戦争の悲惨さ…

読書日記2019/05/13 ドロシー・L・セイヤーズ『ナイン・テイラーズ』

前回の投稿が46日前だから、ほとんど1ヶ月半ぶりの更新だ。1ヶ月に一度は更新したいと述べておきながら、上半期を終えることもなくこの体たらく……、忸怩たる思いがある。これからはもっと更新頻度を上げたいですね。 最近、海外長篇ミステリを読みたいと云う…

週刊少年サンデーの現状についての雑感

まえがき 「『少年サンデー』を毎週読んでいる」 そう云うと、初めて聞く相手は大概驚く。どうも自分は、漫画を、とりわけサンデーを購読するような人間には見えないらしい。確かに、自分の趣味の傾向からしても、その発想は不自然なものではないし、自分自…

読書日記2019/02/21 イアン・マクドナルド『旋舞の千年都市』他

SFを読む意欲が湧いてきたので、積んでいたSF長篇を3冊読んだ。SFを読むと云う今年の抱負を、早速実践したことになる。 イアン・マクドナルド『旋舞の千年都市』の舞台となるのは、近未来のイスタンブールである。ヨーロッパとアジアの狭間、様々な勢力が取…

読書日記2019/02/13 アガサ・クリスティー『象は忘れない』

《回想の殺人》と云うテーマが最近気になっている。過去に起こった、記憶の中の事件を解決する形式のミステリのことで、代表的なのはアガサ・クリスティー『五匹の子豚』だろう。この形式の場合、事件は目の前に展開されることはなく、資料や証言、そして経…

読書日記2019/02/07 ダリル・グレゴリイ「二人称現在形」他

テストが終わり、単位については人事を尽くして天命を待つ状態となったので、開放感に任せて図書館に行った。〈S-Fマガジン〉を読むためだ(京都府立図書館はごく初期を除いて、〈S-Fマガジン〉のバックナンバーが揃っている。優秀!)。読んだのは単行本未…

POSシステム上から消失した「銘」:銘宮「黄金の降る場所で」

円堂都司昭「POSシステム上に出現した「J」」*1は、全てをバーコードによって特定していくシステムに危ういほどその身を近付けつつも最後には否定をぶつけるものとしての本格ミステリ像を語る、刺激的な評論だった。ここで例示されているのは90年代に現れた…

2019年の抱負

新たな年がはじまりました。昨年末はブログと云う格好の舞台を用意しておきながら一年の総括のようなものをやっていませんでした。*1今さらやったところで遅いですから、どうせやるなら今年の話をしましょう。 と云うわけで、2019年の抱負をつらつら述べてい…