歴史を生きたいとは思わない、歴史的な時代を生きたいとは。わたしの小さな命は、そういうとき、たちまち無防備になる。偉大なできごとは、小さな命に気づかず、それを踏んづける。立ちどまりもせずに……。(じっと考える)わたしたちのあとに残るのは、歴史…
(※この記事では、『アリバイ崩し承ります』および『時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』の収録作品について真相を明かしています。また、敬称は略しました) 大山誠一郎の〈アリバイ崩し承ります〉シリーズは世にも珍しい、アリバイというテーマで統…
『地図と拳』は、云うなれば、「明後日」にある夢の話が、現実という「明日」の話に敗北する物語だ。 来る文学フリマ東京41にて頒布される雑誌『HYPE FICTION』に、特集〈偽史の想像力〉の一環として、註含め一万字ほどの評論を書きました。サークルは〈型月…
「世界」はどこまで広がっているのか、われわれの手はどこまで届くのか、あるいは、見知らぬものの手が知らぬ間にわれわれに触れているのではないか。そんな問いに、推理という道具を変容させながら答えてゆくこと、それが現代の本格ミステリの前線であろう…
ならば本書は「小川哲らしくない」のだろうか? もちろん、これまでに見られなかったようなことが本書では試みられているようである。けれどもそれは決して「小川哲らしくない」ことを意味しない。本作はたしかに「小川哲最新作」として、これまでの著作の流…
「写真は、痕跡なんです。そのひとが、かつてそこにいたことを、証している」 七回忌をきっかけに見つかった、亡くなった父を写したフィルム。けれども写真に印字されていたのは、父が亡くなった翌日の日付だった――。存在するはずのない写真に困惑した娘のあ…
こんにちは、鷲羽巧です。 このたび、自作「幽霊写真」が第3回創元ミステリ短編賞を受賞しました。選考委員のみなさまをはじめとして、賞に関わったみなさま、そして応援してくださったみなさまにも、厚くお礼申し上げます。 www.tsogen.co.jp 上記ページに…
※この記事は青崎有吾『図書館の殺人』(東京創元社刊)の真相と結末に触れています。 メッセージを読み取ること、それ自体が謎であり主題となる点で、ミステリにおけるダイイングメッセージは暗号の一種として含まれるだろう。けれども一方で、ダイイングメ…
Abstract『氷菓』は米澤穂信による小説作品〈古典部〉シリーズの第一作であり、作中における古典部の文集の名前でもある。三十三年前に古典部で起こった出来事を調べ、謎めいた文集タイトルに秘められた意味を解くこの物語は、題材こそ架空であるものの、歴…
《あらゆる細部は失われる。残るのは言葉だけだ》――ささやかな信条表明である表題エッセイ「言葉だけが最後に残る」のほか、2018年末からブログ〈鷲はいまどこを飛ぶか〉で書いてきた書評・評論・エッセイを集成。「読書日記」6年分を中心に、京大推理…
この半年ほど、こう云う勉強会に参加していました。 #文学フリマ東京40 に参加します2025.5.11(日)️東京ビッグサイト南1〜2ホール M-37 https://t.co/kIQiMmFOvS阿部幸大『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』をもとに勉強会をし、その成果…
読むのはほとんどの場合、書評だ。好きだとあらかじめ知っている本に目を通す以上のことをするには、残された時間はあまりにも少ない。――リチャード・パワーズ「メジャーズ滝へ」 京大生協の書評誌〈綴葉〉で書評に参加してからそろそろ一年経つ。こちらでは…
「おいらは、犯人は狂ってました、って結論でもいっこう構わない。しかし、その〈ある意味で〉というやつが知りたいんだ。人はわけのわからない事件に出合うと、みな、狂人のやったことでしょう、で済ませてしまう。おいらが知りたいのはその先だ。狂気には…
ウオウオ #いいねされた数だけ好きな作品を挙げる — washoe2.5 (@washoe2020) 2025年2月4日 今月初めにtwitter(現Ⅹ)で募集を掛けたところ、50強いいねが来てしまった企画。ひとつひとつにコメントを付したので余計に大変だった。本記事は、そのまとめである。 …
『蒼鴉城 第四十九号』に書いた中篇「グラモフォンとフィルム、タイプライターの殺人」の番外的掌篇。そんなものに需要があるのか知らないが、ぼくが読みたいと思ったので書いた。 土曜日で、雨だった。眼が覚めたときには両親は共に出かけていて、ダイニン…
「とにかく、人間はもう少し優しくならなくちゃ。そう、できれば神様の次くらいに」――久住四季『神様の次くらいに』(創元推理文庫) 優しくあれ、と思う今日この頃である。優しくなりたい、と思うし、今年も多くの方から優しくされて嬉しかった。ありがとう…
今年最後の読書日記。四作を貫くテーマはずばり、「記憶」と「物語」だろう。 Somi『未解決事件は終わらせないといけないから』(Somi) 岡真理『〈思考のフロンティア〉記憶/物語』(岩波書店) ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』(岩波文庫) 町屋良平…
年が暮れる。この冬の先に何が待っているのかぼくには皆目見当がつかなくて、けれどもひらすら寒いのは確かで、まんじりともせず動けないでいる日々だ。体調も崩した。もう駄目駄目だ。みなさんも生焼けの魚介とかぜったい食べちゃ駄目ですよ。 そのようにメ…
書評の再録。もとはカモガワ編集室さんの企画「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集全レビュー」に寄稿したものです。 漁火や街灯りが空気によって歪められることで浮かぶ、誰のものとも知れない火――不知火。その幻想的な光景を名に冠した海で水俣病は発生した…
書評の再録。もとはカモガワ編集室さんの企画「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集全レビュー」に寄稿したものです。 《これからする話を聞いてほしいんだ。》と小説はいきなり語りはじめる。これはすべての章に共通する書き出しで、最終章を除くと、いずれも…
書評の再録。もとはカモガワ編集室さんの企画「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集全レビュー」に寄稿したものです。 多くのアメリカ文学やアメリカ映画のなかで描かれてきたからだろう、ヴェトナム戦争はしばしば、アメリカの戦争として語られてきた。米ソの…
書評の再録です。カモガワ編集室さんの企画「〈未来の文学〉全レビュー」に寄稿したもの。 アメリカのカレンダーに載っている様々な記念日――バレンタイン・デーやハロウィーン、クリスマス、アメリカならではのものであればリンカーン誕生日などに因んだ中短…
書評の再録です。カモガワ編集室さんの企画「〈未来の文学〉全レビュー」に寄稿したもの。 ジーン・ウルフの小説を読んでいると「何かが失われてしまった」と云う感覚がつきまとう。ここに空白がある、何かが失われたのだ、何が失われたのか、どうすればそれ…
十一月と云うものは、おそらく瞬きよりも速いに違いない。何かをしたとも思えないうちに、あっと気が付けば月末である。とは云えぼく以外の方々は11月祭や東京文フリに向けて忙しく動いており、宣伝しておくと、まず11月祭で刊行された京都大学推理小説研究…
十月が終わる。〆切やイベントに追われて忙しくしていたせいか、長かったような、それでいて、瞬く間にすぎたようでもある。 有栖川有栖『日本扇の謎』(講談社ノベルス) 北村薫『ニッポン硬貨の謎』(創元推理文庫) 米澤穂信『クドリャフカの順番』(角川…
走馬灯の世界――おぞましい昼の街、どぎついコバルトの空のもと稚拙な形や色がバベルのように混沌と積み重ねられ、破産の奈落の上で揺れている街──デアリー牧場の〈ライ豆のマーガリン和え〉の助けを借りて〈四ペンスで揃う一家のご馳走〉を供する〈やりくり…
お知らせ:『オブスクラ』増刷しました。 washibane.booth.pm 巽昌章『論理の蜘蛛の巣の中で』(講談社) 米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件』(創元推理文庫)※ネタバラシ有 髙村薫『レディ・ジョーカー』(新潮文庫) 巽昌章『論理の蜘蛛の巣の中で』(講…
ときに最大のトリックは、何かがトリックでしかないと主張したり、容易にそれを暴くことができると主張したりすることのうちにあるのだ。――トム・ガニング『映像が動き出すとき』*1 云うまでもないことだが、米澤穂信は言葉と云うものに注意を払い続ける作家…
同人誌をつくったり盆休みに祖母を訪ねたり集中講義に潜ったり犯人当てを書いたりしているうちに八月はあっと云う間に過ぎ去っていった。何がやばいって就活とか研究とか一切手を付けなかったことだよ。同期はインターンに行っとるぞ調査に行っとるぞそれで…
鳥、アメリカ、記憶、メディア、物語――著者がこれまでに京都大学推理小説研究会で発表した中短篇を集成。はなれわざの趣向で会の犯人当て史上に名を刻む2篇「鴉はいまどこを飛ぶか」と「はさみうち」。「人生は物語ではない。でも、物語でなければ生きていけない…