突発的に書いた掌篇。地図小説です。元ネタはボルヘスのアレ。 過去のあらゆる地図よりも正確な地図をもとめたのは四人目の皇帝だったとされる。この頃、帝国の版図は建国以来最大を更新し、千年間で最も権勢を誇った。皇帝が地図を求めたのは、この治世を確…
こんにちは。鷲羽巧です。 小川哲さんの短篇集『嘘と正典』文庫版の解説をこのたび担当しました。 解説では、個々の作品の読解から、作家・小川哲の魅力、そしてぼくはそもそも誰なのか――なぜ一介の大学生なのにこのような大役を任されたのか――も含めて書い…
何かを考えたいときは散歩する。何かを考えながら散歩するときに公園が目に入ると立ち寄る。そこにはたいていブランコがある。両脚をピンと伸ばして、勢い良く漕ぐ。振り子の周期をその身で感じながら、何かを考える。多くの場合、それは夕暮れから夜中だ。…
『文体の舵を取れ』の練習問題⑦ではウボンゴ小説と呼ぶべき掌篇を提出した。この記事は過去複数回にわたって発表したそれらのまとめ版。なぜまとめたのかと云うと、ウボンゴが話題に出るたびにリンク貼るのに、記事が複数あると面倒だからだ。最近はゲーム小…
名探偵の話です。最後に残ったものが勝者だ。 象と絞首刑 指し手たちがその場を去っても、時が彼らを消滅させても、儀式が終わらぬことは確かだろう。――ホルヘ・ルイス・ボルヘス「象棋」(鼓直訳) 小父さんが死んだ。高名な推理作家だった小父さんの死を多…
一年前、所属しているサークルでエラリイ・クイーン『九尾の猫』の読書会をおこなった。我ながら気合いの入った文章だと思うし、それなりに褒めてもらえたので調子に乗ってここに公開する。久しぶりに読み返したら「けっこううまくやってんじゃん」と思った…
あなたの名前を教えてください。 文子。文子と書いて、あやこ。戸籍はそう登録されているはずだけれど、母はわたしをふみと呼び続けた。父に名前を呼ばれたことは一度もない。近しい友人はわたしをぶんちゃんとかあやとか名付けた。大学では烏丸と呼ばれるこ…
こうなる。パワーズの出来損ないみたいだ。 きのうきょうと書き進めていたが、お話の方がどうにも掴めない。 その報せを、わたしは早朝の東京駅で受け取る。父の死。音にしてたった四文字。ひと影の疎らなプラットホームで、すべてが静止したかのように灰色…
ここまでの練習問題に対する自分の答案のなかから、長めの語り(八〇〇字以上のもの)をひとつ選び、切り詰めて半分にしよう。 合うものが答案に見当たらない場合は、これまでに自分が書いた語りの文章で八〇〇〜二〇〇〇文字のものを見つくろい、このむごい…
進捗がない。 「開けなさい」 ノックと云うにはあまりに激しい、こぶしが扉を撲る音。窓の鎧戸が下ろされ明かりも落とした部屋、立方体にぴたりと詰まった暗闇のなかで、少年は布団を頭から被る。両手で耳を塞ぎ、ベッドの上に壁を向いて蹲る。瞼を閉じる。…
問三:ほのめかしこの問題のどちらも、描写文が四百~千二百字が必要である。双方とも、声は潜入型作者か遠隔型作者のいずれかを用いること。視点人物はなし。 ①直接触れずに人物描写――ある人物の描写を、その人物が住んだりよく訪れたりしている場所の描写…
問一:A&B この課題の目的は、物語を綴りながらふたりの登場人物を会話文だけで提示することだ。 四百~千二百字、会話文だけで執筆すること。 脚本のように執筆し、登場人物名としてAとBを用いること。ト書きは不要。登場人物を描写する地の文も要らない。…
駄目になっていた。ひとと話すときはいつもの調子に戻るのだが、ひとりになると駄目になってしまう。ただ、用事がない限り出席しようとしていた読書会を、駄目になっているうちに無断欠席してしまった(スマホもまったく見ていなかった)ことをうけて、流石…
400〜700文字の短い語りになりそうな状況を思い描くこと。なんでも好きなものでいいが、〈複数の人間が何かをしている〉ことが必要だ(複数というのは三人以上であり、四人以上だと便利である)。 出来事は必ずしも大事でなくてよい(別にそうしてもかまわな…
ミステリーズ新人賞に送るための短篇小説の構想が、いつまで経ってもまとまらない。早いうちに目処を立てて、鮎川哲也賞に送る長篇に取りかかりたいのだけれど。 有栖川有栖の中短篇集を読んで、〝名探偵〟が登場して腰を据えた捜査をする作品は短くとも中篇…
ミステリ研にいたこの4年間、ミステリを相対化するばかりで、〝本格ミステリ〟なるものと四つに組むことを避けてきたように思う。 大山誠一郎『記憶の中の誘拐 赤い博物館』(文春文庫) 麻耶雄嵩『螢』(幻冬舎文庫) 綾辻行人『霧越邸殺人事件〈完全改訂版…
四〇〇〜七〇〇文字の短い語りになりそうな状況を思い描くこと。なんでも好きなものでいいが、〈複数の人間が何かをしている〉ことが必要だ(複数というのは三人以上であり、四人以上だと便利である)。出来事は必ずしも大事でなくてよい(別にそうしてもか…
実家、と云っても賃貸なのだけれど、年内に引っ越すと云う。既存の家に移り住むのか、新しく土地を買って建てるのかはまだわからないが、実家を離れることは決定したらしい。同居していた祖父母は何年も前に亡くなって、息子ふたりが曲がりなりにもそれぞれ…
だけど、もうだれも逃げられはしないんだ。トミーはポケットに両手をつっこみ、反対方向に歩きだした。はじめはゆっくりとした歩みだったが、しだいに速くなり、最後にはほとんど駆け足になっていた。まるで骨の中身がすっかり空っぽになってしまったようだ…
たぶん今年最後の読書日記。年間ベスト記事を年内に書けるだろうか。 ジョン・ディクスン・カー『四つの凶器』(創元推理文庫) 滝口悠生『死んでいない者』(文春文庫) 小森収・編『短編ミステリの二百年〈6〉』(創元推理文庫) ジョン・ディクスン・カ…
クリスマス・イヴはラファティを読んでAKIRAを観てランジャタイで笑っていました。これはこれで充実している。 感想はミステリ研のDiscordサーバーに投稿したものを転載した。ひとに読んでもらうことを前提としているので、感想と云うより書評に近い文体を取…
クリスファー・プリースト『魔法』(ハヤカワ文庫) カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』(創元推理文庫) 『カモガワGブックス Vol.3 〈未来の文学〉完結記念号』(カモガワ編集室) クリスファー・プリースト『魔法』(ハヤカワ文庫) そう、おそらく…
説明 動画に何が映っているのかを書く 出来たものを半分くらいまで削る 書く エントランスにあるモノクロームの写真が何枚も額縁に入れられ、チェストの上に立てかけられている。すべて屋敷の主人を写していた。フェンスに囲われた砂漠の一角で軍服姿の男た…
過去最高に創作意欲が盛り上がっている。何か書けると良いですね。 感想は例によって例のごとく、ミステリ研のDiscordサーバーに投稿したものを転載した。 ジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』(新潮クレスト・ブックス) 「冬のマヨルカ五日間の旅」に出…
説明 動画に何が映っているのかを書く 出来たものを半分くらいまで削る 書く 雨のなかを自動車が走っている。フォルクスワーゲンのタイプ1。またの名をカブトムシ。木立を突っ切る道は舗装されていない。街灯もない、夜明け前の暗闇をふたつのフロントライト…
説明 写真に何が写っているのかを書く 出来たものを半分くらいまで削る 書く 五十年前、バンクーバーはまだ港と蒸気船の街だった。高台からぼくはいつもフォールスの入り江を往来する大小様々な船を日がな一日眺めたものだった。入り江に向かって滑り落ちる…
説明 写真に何が写っているのかを書く 出来たものを半分くらいまで削る 書く 彼の家はハウ通りとネルソン通りの交差点にあって、バンクーバーの、そうでなくともわたしたちの町のなかではちょっとした名物だった。ハウ通りに沿って四軒の店が並び、同じ大き…
説明 写真に何が写っているのかを書く 出来たものを半分くらいまで削る 書く 洋服店のウインドウの手前、張り出したスペースには大きさの異なる円盤を三つ大きい順に下から重ねている円錐状の台が置かれ、小物やポーチが陳列されてある。並べてあるのは白い…
説明 写真に何が写っているのかを書く 出来たものを半分くらいまで削る 書く 玄関の呼び鈴を何度押しても応答はなかった。ガレージには車も駐められているし、家の明かりはついている。居留守と云うには住民の存在を隠そうともせず、来訪者を拒もうともして…
四〇〇〜七〇〇文字の短い語りになりそうな状況を思い描くこと。なんでも好きなものでいいが、〈複数の人間が何かをしている〉ことが必要だ(複数というのは三人以上であり、四人以上だと便利である)。出来事は必ずしも大事でなくてよい(別にそうしてもか…