『夜になっても遊びつづけろ:よふかし百合アンソロジー』(ストレンジ・フィクションズ,2021)に書いた短篇。コーマック・マッカーシーの遺作『通り過ぎゆく者』を読んでいたらふと思い出したので、もう発表から3年も――3年も?!――経つことも踏まえ、じゃ…
国内ミステリ三冊。『禁じられたジュリエット』の感想については核心的なネタバラシを避けるものの、相当内容に踏みこんでいるので未読の方はご注意を。 北山猛邦『天の川の舟乗り:名探偵音野順の事件簿』(創元推理文庫) 横溝正史『八つ墓村』(角川文庫…
S・S・ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』(創元推理文庫) エドガー・アラン・ポー『ポー傑作選1 黒猫』(角川文庫) ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』(東京創元社) S・S・ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』(創元推理文庫) 「そんなはずはない」ヴァン…
上雲楽さんへ(ところでこのお名前、苗字と名前の区別とかあるのでしょうか? 前回の手紙では字面でなんとなく「上雲さん」と呼んでしまいました。とりあえずここではフルネームでお呼びしますね、まどろっこしくてごめんなさい) お手紙、どうも。 けれども…
深夜の突発企画。こう云うのは勢いでやるもんだ。選んだのは十二冊。黄金の十二ゴールデン・ダズンである。 アガサ・クリスティー『オリエント急行の殺人』 アガサ・クリスティー『葬儀を終えて』 アガサ・クリスティー『鏡は横にひび割れて』 アガサ・クリ…
上雲楽さん お手紙、どうも。伊勢田勝行=伊津原しまと云うつくり手のことは初めて知りました。とりあえず検索をかけて、ニコニコニュースでのインタビューを読み、そこで紹介されていたMVを見ました(短かったので)。なんと云えば良いのか、圧倒されまし…
箱の後部に突き出た摘みを回して、ゼンマイを巻く。ゼンマイの動作によって歯車が回転し、それに接続された真鍮のシリンダーがゆっくりと回転を始める。シリンダーには小さなピンが無数に打たれており、これが台座に設置された櫛歯コームを弾くことで音が鳴…
有栖川有栖『長い廊下がある家』『妃は船を沈める』(光文社文庫) カルロ・ギンズブルグ『糸と痕跡』(みすず書房) 有栖川有栖『長い廊下がある家』『妃は船を沈める』(光文社文庫) 「いい心掛けだ。力余って尻餅を搗くようなスイングは見ていて気持ちが…
J・D・サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』(柴田元幸訳,河出書房新社) ケヴィン・リンチ『時間の中の都市』(東京大学大谷幸夫研究室訳,鹿島出版会) ティム・インゴルド『応答、しつづけよ。』(奥野克巳訳,亜紀書房) J・D・サリンジャー『ナイン・…
巨大さんへ*1 お手紙、どうも。 乗代雄介『旅する練習』はぜったいに読もうと思いながら、いくらかのたじろぎによってまだ読めていない小説です。たじろいでいるうちに文庫化してしまいました。なぜたじろいでいるのかと云えば、これまでに読んだ乗代作品――…
大変な年明けになった。地震、事故、火災。至るところで人びとが、理不尽によって傷つき、命を落としている。世界が音を立てて壊れてゆくような気がする。もうとっくに腐り始めているのかもしれないが。 私生活においても、熱が出るわ、肺に穴が開くわ、身体…
2024年がはじまりました。今年もよろしくお願いします。 昨年末、周囲でブログがたくさん稼働している音が響いていたので、ここはひとつ、ブログを継続的に書く――感想を書き続けるために個人的に考えてきたことを公開しようかと思います。数ヶ月前、ミステリ…
今年は過去数年間のうちで、もっとも手応えをもって読書できた一年だったと思う。読みながら考え、考えながら読む。理由はおそらく、積極的に本文に書き込むようになったこと、それと、メモ帳を普段から使い倒すようになったことだろう。それは書きながら読…
アラン・コルバン『記録されなかった男の歴史:ある木靴職人の世界1798‐1876』 イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス『シェイクスピアの記憶』 アンソニー・ドーア『すべての見えない光』 アラン・コルバン『記録されなかった男の…
イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』(米川良夫訳、河出文庫)を読んだ。大いに感銘を受けた。具体的な感想はまたどこかで書くとして、ひとまず、生涯最良の小説のひとつに挙げて後悔はないだろうと思う。けれどもそれほどに素晴らしい小説なのに読んだ端…
最近はやたらに読んでやたらに書いている。そのせいでスケッチが疎かになってしまっているけれど、書くことも読むことも線を引くことも、同じ線上に置かれるならば、それも当たり前なのかもしれない。 北村薫『遠い唇:北村薫自選日常の謎作品集』 アドルフ…
似たようなことだが、いつのまにか私たちの地図が、自分で夢を見るようになった。だから毎晩、地図が眠りこみ、都市はたえまなく形を変えている。円かったかと思えば正方形になり、山頂にあったかと思えば海底に沈んでいる。煙のような都市。人の声すらしな…
あとに残るのは言葉。ただ言葉だけだ。われわれは言葉の外に出ることはできない。音楽がドレミの外では何も演奏できないように。映像が光の外では何も映すことができないように。すべてはこのどうしようもない窮屈さのなかで一切が遅れてゆく。そこには本当…
卒業研究の進捗が芳しくない。それはそれとして本は読む。 スーザン・ソンタグ『他者の苦痛へのまなざし』 写真は繰り返し立ち現れる。写真は単純化する。写真は扇動する。写真はコンセンサスという幻覚を創り出す。 藤原辰史先生の《現代史概論》に潜ってい…
読書日記なのでさらっと書くつもりだったが、どれも本当に良い本だったのでじっくり書いてしまった。 結城正美『文学は地球を想像する:エコクリティシズムの挑戦』 石岡丈昇『タイミングの社会学:ディテールを書くエスノグラフィー』 本田晃子『革命と住宅…
来たる2023年11月11日、東京流通センターにて開催される文学フリマ東京37にて、鷲羽巧は出席こそしませんが、いくつかの文章を書かせてもらっております。以下、その告知です。 カモガワ編集室『カモガワGブックス vol.4』〈池澤夏樹=個人編集 世界文学全集…
ガザでおこなわれているあらゆる暴力行為、ひいては虐殺に反対する。 山田風太郎『太陽黒点』 クリストファー・アレグザンダー『まちづくりの新しい理論』 山田風太郎『太陽黒点』 「誰カガ罰セラレネバナラヌ、誰カガ罰セラレネバナラヌ、誰カガ罰セラレネ…
新刊と、いまさら読んだタイトルをひとつずつ。前者はミステリ研のDiscordに投稿したものを再録した。後者はいまここで書いているもので、作品の核心と思われる箇所に踏みこむ。未読ならば注意されたい。 小川哲『君が手にするはずだった黄金について』 京極…
この一ヶ月くらい、『蒼鴉城』原稿と『苦海浄土』にかかりきりであまり本を読めていなかったが、一ヶ月ほどまえの感想を放置するのもどうかと思うので更新する。『蒼鴉城』に書いた作品のほうは現在朱入れ校正中で、来月にはお目にかけられると思います。久…
カモガワ奇想グランプリにて、一次選考を通過した掌篇。アイデアは、と云うか、情景は以前から思いついていて、しかしそれをどんな切り口で書けば良いのか決めあぐねるうちに〆切が迫り、出さないよりマシだと思ってアイデアをいろんな方面からつんつんする…
院試に受かった。文転や転学部を目論んだり、休学したり、留年したり、研究室を移ったり、ああでもないこうでもないと迷った挙句、隘路に嵌まって時間の止まったようだったこの数年間の道のりが、ようやく開けたような気がする。道が開けたところでどこにた…
お仕事の告知です。『SFマガジン』2023年10月号の特集「SFをつくる新しい力」に参加しております。SF小説の入門作品を薦めるミニレビューで、ぼくは2作品を担当しました。未読の方の道標となっていれば幸いですが、さて、道標となるようなレビューとは何か。…
大事な試験を間近に控えてどきどきしてきたので気を紛らわすためにブログを更新する。マストドンで投稿したものを再録したので基本的に短い。読書メーターのヘビーユーザーだった高校生の頃を思い出す。院試前にしては小説を読みすぎている、と云うあなたの…
「仕方がありません。それが、私とあの子が払う代償というものでしょう」 ストイックな短篇集だ。定規やコンパスで作図された幾何学模様を思わせる。謎があって、解決がある。その抽象的な運動のために、ぎこちないほどに淡々とした文章と、警察小説の体裁が…
2年ほど前に書いた掌篇。 カモガワ奇想短編グランプリに応募できるな、と思って抽斗から引っ張り出してきたけれど、《紙媒体の書籍ないしは同人誌に掲載されたものは投稿不可》と云うレギュレーションに気付いて、とは云え引っ込めるのもあれだし、お祭りの…