鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2022年上半期ベスト

これくらい単純なことがあるだろうか?――リチャード・パワーズ『黄金虫変奏曲』(みすず書房) 複雑に延び、繋がり、分断された露地を進んだ。――小川哲『地図と拳』(集英社) 上半期ベストの季節がやってきました。やって来てしまいました。いままでは半期…

創作「帝国と云う名の地図」

突発的に書いた掌篇。地図小説です。元ネタはボルヘスのアレ。 過去のあらゆる地図よりも正確な地図をもとめたのは四人目の皇帝だったとされる。この頃、帝国の版図は建国以来最大を更新し、千年間で最も権勢を誇った。皇帝が地図を求めたのは、この治世を確…

小川哲著『嘘と正典』文庫版の解説を担当しました

こんにちは。鷲羽巧です。 小川哲さんの短篇集『嘘と正典』文庫版の解説をこのたび担当しました。 解説では、個々の作品の読解から、作家・小川哲の魅力、そしてぼくはそもそも誰なのか――なぜ一介の大学生なのにこのような大役を任されたのか――も含めて書い…

ブランコを漕ぐ

何かを考えたいときは散歩する。何かを考えながら散歩するときに公園が目に入ると立ち寄る。そこにはたいていブランコがある。両脚をピンと伸ばして、勢い良く漕ぐ。振り子の周期をその身で感じながら、何かを考える。多くの場合、それは夕暮れから夜中だ。…

創作「ウボンゴ小説集」

『文体の舵を取れ』の練習問題⑦ではウボンゴ小説と呼ぶべき掌篇を提出した。この記事は過去複数回にわたって発表したそれらのまとめ版。なぜまとめたのかと云うと、ウボンゴが話題に出るたびにリンク貼るのに、記事が複数あると面倒だからだ。最近はゲーム小…

創作「象と絞首刑」

名探偵の話です。最後に残ったものが勝者だ。 象と絞首刑 指し手たちがその場を去っても、時が彼らを消滅させても、儀式が終わらぬことは確かだろう。――ホルヘ・ルイス・ボルヘス「象棋」(鼓直訳) 小父さんが死んだ。高名な推理作家だった小父さんの死を多…