緊急事態宣言が解除されつつある。パンデミックが収束したわけではないし、そう遠くない未来に第二波が来ることが予想されるものの、最初の大波をとりあえず最悪の事態になることなく乗り越えられたらしいことには安堵する。「吉備津の釜」よろしくのぬか喜びかも知れないが、いまはとりあえず無理矢理にでも、気分を軽くしたい。ずっと緊張していられるほど、(ほとんどの)人間は強くないはずだ。事実上の「気を引き締めましょう」宣言だった緊急事態宣言が解除されれば気が緩むのは当然のことで、自粛をある程度やめることを責める気にはなれない。ぼくだって緊急事態宣言が出る少し前くらいの生活に戻るつもりだ。
と云うわけで気分は先月に比べると幾分明るいが、日々twitterやニュースで目にする「気の緩み」と云う言葉にはどうにも他罰的なニュアンスが含まれているように思えて、あまり好きになれない(上の文章で使ってしまったが)。自粛を緩めることを責めるひとびとは、第二波が来たら「そうら見たことか」と云うのだろう。その未来を想像して少し不愉快を覚える。
気分は明るくなった。しかし安定しているとは云い難い。明日から下宿に戻るつもりだが、やってゆけるだろうか。
とりあえずは、自粛を緩めるからこそ、手洗いや消毒をこまめにしたい。幸いにしてか、不幸にしてか、それはもう習慣になっている。
スティーヴン・キング『恐怖の四季』を読み終えた。
【スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)/スティーヴン・キング】を読んだ本に追加 → https://t.co/InPNeL1GOP #bookmeter
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月22日
長篇としては短く、短篇としては長すぎる、やや長めの中篇――ノヴェラを4篇収録した『恐怖の四季』の1巻目。「スタンド・バイ・ミー」は文庫本にして350頁もあるけれど、語りの構造ゆえか、確かに単体の長篇として扱うには躊躇いがある。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月22日
「スタンド・バイ・ミー」は邦題の意味は理解できるものの、二度とは戻らない過去、もう会えない友人たちを懐かしむ心情があまりに面に出過ぎているように思えて好きになれない。原題の「The Body」も味気ないが、こちらはキーアイテムのことを指しているようで作品全体を捉えている。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月22日
かつての仲間たちは死体になった。過去もまた死体になった。後ろへと流れ去ったそれらはもう陰になって見えない。ただ生者たちだけが残されている……。
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長篇にするには複雑性が足りないと云うか、物語全体を立ち上げるための膂力と構造がなく(抑えられている)、ひと続きの長い絵をすうーっと見せられた感覚。短篇の鋭さや緊張を犠牲にしてまでも、丁寧に書き込んだような。ノヴェラはノヴェラで面白いな。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月22日
「マンハッタンの奇譚クラブ」は嫌悪感を催すほどの凄惨な悲劇に一条の光を(あくまでも眩しすぎないよう)すっと差し込ませるキング流石、クラブの雰囲気のもり立て方も流石、くらいしか思わなかったんですが、作中のスティーヴンズ=スティーヴンたちでは?と思いついたいま評価がぐんと上がった。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月22日
物語を語ることについての話であり、それはもうひとつの作品にも通じる。中篇同士が響き合うわけだ。
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追加:スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」https://t.co/pXyjy3JuFp
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原題にredemptionとあるけれど、贖いなのか? とは思う。
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— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月24日
無実を訴えながらも投獄された男の数奇な運命に思いを馳せる「刑務所のリタ・ヘイワース」、ホロコーストに加担しながら逃亡し続けた老人と暴力・虐殺にどうしようもなく惹かれる少年のおぞましくも奇妙な交流「ゴールデンボーイ」の2篇。流石に後者は長篇と云って良い気がする。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月24日
「刑務所のリタ・ヘイワース」は読了直後に感想書いたのでことさら言及しません。時間を置くと、3人殺してる語り手がぜんぜん悪びれていないのが気になってくるが、長い長い時間を経たあとの回想ならばそんなものなのかも知れない。個人的な贖いはすでに済んだと云うことだろうか。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月24日
「ゴールデンボーイ」は暗い過去を持つ老人と優等生の少年の交流、と云う紹介では間違いなく誤解を与える凄まじい話。どこに転がってゆくのかわからないまま、細かなエピソードを積み重ねて引っ張り、これ以外ないと思えるほど破滅的で、しかしどこか哀しいラストへ持ってゆくハンドル捌きが光る。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月24日
大まかな骨組みのあいだに細かい物語を詰めてゆくのは4篇いずれも共通しているけれど、「ゴールデンボーイ」はそれを、一歩間違えれば作品全体を引きずり込んで崩壊する危うい主題を扱いながら物語を進行させるエンジンとして使っているように思う。複数の視点を絡める手法もその一環。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月24日
ただあまりにも鮮やかに、あらかじめ持っていたポテンシャルがゼロになるまで物語を落としきるので、扱う主題のセンシティヴさに反して読後強い印象が残らない。こんな物語を読んでいる読み手までも巻き込むような構図をもっと強く打ち出せていれば――と云うのは、贅沢な注文だろうか。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月24日
とは云え。過去が追いついてくる構図を終盤に畳みかけてくるのは圧巻で、至るべき終わりへ向けて何もかもが収束し、余韻さえを拒むように呆気なく打ち切られるこの結末は、これはこれで良い、とも思う。
— Washoe1.9 (@archipelago1999) 2020年5月24日
なお、映画『スタンド・バイ・ミー』『ショーシャンクの空に』はどちらも見ていない。