鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

私的オールタイムベスト・ミステリ

 深夜の突発企画。こう云うのは勢いでやるもんだ。選んだのは十二冊。黄金の十二ゴールデン・ダズンである。

アガサ・クリスティーオリエント急行の殺人』

 ぼくが探偵小説を読むようになったきっかけであり、おそらく今後、これを超えるものとは出会わないのだろうと思う。これは列車と云うよりも箱であり、しかしこの箱のなかには、世界が収められている。

 

アガサ・クリスティー『葬儀を終えて』

 腰が抜けるほど驚いた。

 

アガサ・クリスティー『鏡は横にひび割れて』

 起こってしまった、と云う悲劇。

 

アガサ・クリスティー『五匹の子豚』

 一枚絵としての探偵小説。あるいは、だまし絵としての。

 

ドロシー・L・セイヤーズ『ナイン・テイラーズ』

 神を感じた。

 

G・K・チェスタトン『ブラウン神父の不信』

 けっきょくチェスタトンに還っていくのではないか? シリーズ全部と云いたいところだが、パズラーとしての側面が強い『不信』を偏愛している。

 

エラリイ・クイーン『九尾の猫』

 人間を数字にすること。

 

ヒラリー・ウォー『生まれながらの犠牲者』

 捜査と叫び。

 

ロス・マクドナルド『さむけ』

『ギャルトン事件』でも可。『一瞬の敵』でも良し。ともかくロス・マクは一冊挙げたい。この作家との出会いは、蒙が啓かれる感覚があったから。

 

ハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』

 ミクロからマクロへ。

 

コリン・デクスター『ニコラス・クインの静かな世界』

 良い小説だとは思っていない。好きなわけでもない。しかし、ここにはぼくの理想へと至る可能性が宿されている。

 

ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』

 なんやかんやで。


 以上十二冊はもちろん暫定、暫定であるが、暫定である以外に何があると云うのだろうか?

 本当はほかにもいっぱい挙げるつもりだった。と云うか、これは最初、海外作品と云う縛りで選んでいたはずなのに、いざ並べてみると、ほかの作品を並べることは難しいように思われた。たとえばぼくのオールタイム・ベストのひとつ、加藤元浩「巡礼」がここには入っていないが、それを挙げるなら、この十二冊とはまったく違った場所に置かれるのではないか。
 たぶんここに並べているのは、オールタイムベストとか、黄金とかではなく、何かしらの基準点なのだ。