鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

文章練習:2021/12/13

説明
  1. 写真に何が写っているのかを書く
  2. 出来たものを半分くらいまで削る
書く

 洋服店のウインドウの手前、張り出したスペースには大きさの異なる円盤を三つ大きい順に下から重ねている円錐状の台が置かれ、小物やポーチが陳列されてある。並べてあるのは白いものばかりで、焦点をそこから外すと輪郭が滲んでぼやけ、ホールケーキのようにも見えた。彼女は焦点を窓の外に合わせた。雨上がりのユニオン・スクエアは車やひとの往来が少ない。大気が潤んでいて景色の色合いはすべて淡かった。遠くに道路を曲がってゆくバスを真横にすっぱり切って二色に別れたクリームのような白と明るい深緑も、道路の向こう側で雨のあいだ閉じていたのだろうまだ営業の準備を終えていない移動式店舗の八角柱のかたちをした屋台の塗装の黄色も、雨が上がったことに気づいて、白地に青い模様が刺繍された頭巾を被った女の子が足許へと下ろすまだ開けたままのチェック柄の傘の赤色も。女の子の近くには三人の女性がいて、いちばん近くの黒いコートを着た女性が母親だとして、ふたりに背を向ける頭巾の老女とパーマがかかった長髪の女性は家族なのかたまたま居合わせたのかわからない。バスを待っているのかも知れない。ユニオン・スクエアには四人以外見当たらない。寂しい広場を舗装のうえに斑に散った水たまりが反射している。そしてその窓越しの景色の一切に、ウインドウに反射した細々としたアクセサリーから色鮮やかな衣服まで揃える店内の賑やかな光景が薄く、半透明に、まるで幽霊のように重なって見えた。(610字)

削る

 ウインドウの手前で小物を飾る、大きさの異なる円盤を三つ重ねたかたちのディスプレイから視線を逸らし、彼女は窓の外を見た。視界の端でディスプレイは輪郭がぼやけ、白い小物はケーキのように映った。外のユニオン・スクエアは雨が降り止んだばかりだ。潤んだ大気のなかで風景の色合いはすべて淡かった。広場を去ろうとするバスを二分して塗られたクリーム色と深緑も、通りの向こうでまだ店を開けていない屋台の外装の芥子色も。雨が上がったことに気づいた女の子が下ろすチェック柄の傘の橙色も。女の子は母親、それからこれは家族かわからない女性ふたりと並んでバスを待っている。彼女ら以外にひと通りはなかった。道路を斑に濡らす水面が寂しい広場を反射する。その風景の一切に、ウインドウに映り込んだ店内の賑やかな様子が半透明に、まるで亡霊のように重なっていた。(361字)

反省
  • ソール・ライターはムズい。その作品は言葉のいらない境地、つまり、色の配置や構図の妙に魅力があるから。何が映っているのかは、ライターの写真では究極、関係がないのかも知れない。
  • あと書いてから状況を誤解していたことに気づいた。店内から覗いてるんじゃないく、たぶん角のあたり、もしくは張り出したウインドウ越しに広場を撮っているんだな。
出典

Saul Leiter, Union Square, 1950s.