パヴェウ・ヒュレ『ヴァイゼル・ダヴィデク』を読んだ。以下、雑感。ミステリ研のdiscordサーバーに投稿した感想を転載した。
- 海外文学で毎年一冊は出てくる、「何が起きたのか?」「あのひとは何者だったのか?」と云う問いかけをミステリ的な手続きで追求しながらついに答えにたどり着かないで終わる――と云うやつ。個人的な問題意識と近接している作品が多いうえにどれも面白いのだけれど毎年読んでいるとまたこれかと云う気分にならないでもない。筋立てだけなら、だいたい手続きがおんなじなので……。
- こう云う手法とミステリ的な手続きとで、互いに互いを巧く参照したような作品があれば、間違いなく大傑作になると思うのだけれど。なんでもかんでもミステリに含めるのは節操ない振るまいかも知れないが、そう云う傑作が書かれうるために、本作のような小説がもっと読まれることを望んで、ランキングに推しても良いと思う。
- それはさておき。文体だけ取り出せばもう少し洗練が欲しいけれど、とにかくあらゆる言葉を括弧に括ることを拒み、理解可能な物語を拒み、それが、そこに、あった、と云うことそのものを語ろうとすること――そして失敗すること――が本作の主題である以上、いささか不器用な語りも含めて聴き取るべきだろう。失われたものに引き寄せられていく語りは、しかしぎりぎりのところで斥力に弾き飛ばされるように現在の方向へ飛び散ってしまう。それでも語りは過去へ向かうが、周辺をなぞることしかできない。もどかしく歯がゆい描写それ自体がもがいているように見える。かくしてその語りの結末は、極私的なツボを押さえられて感動してしまうと同時に、語ること/語れないことを主題とする小説はみな、最終的にそこにたどり着くのだろうか、と云う驚きがあった。(そこにたどり着くしかないのか、と云う絶望もないではないが)
- ディテールを取り上げれば切りがない。強いて云えば、ノスタルジーまで拒む、美しいものなんて書くまい、と云う気概のようなものを好ましく思った。
- ポーランドの歴史的文脈を踏まえた訳者の解説が詳しいのでぶっちゃけもうこれでええな、と思う。個人的に、東欧文学も気になりますね。