「ぼくはずっと、本当の瞬間を逃しつづけてきた」
写真家の篠田は、すっかりデジタルカメラに転向して以来、久しぶりにフィルムを現像していた。彼女が撮った写真ではない。学生時代の友人――久世の遺品として、預かったフィルムだ。久世は彼女にカメラを教えた師匠であり、憧れであり、ライバルであり、あるいはそれ以上になり得る存在だった。そうはならなかった、と云うだけのことで。
現像が終わるのを待つあいだ、篠田は昔のことを思い出す。モラトリアムの学生時代。写真との出会い。久世と過ごした日々。そして、奇妙な消失。――あの日、ふたりが別れた最後の夜。久世は篠田の眼からすり抜けるようにして姿を消したのだ。どうやって。そして、なぜ。
ミステリ研の先輩たちが主催する同人誌『玩具の棺 Vol.6』に、短篇ミステリを書きました。5月21日の文学フリマ東京で頒布予定。
お久しぶりです、止まり木館です♪
— 止まり木館@文フリ東京【I-21】 (@tomarigi_yakata) 2023年5月17日
止まり木館は5月21日(日)開催の文学フリマ東京36に出店いたします。新刊の短編ミステリアンソロジー『玩具の棺 Vol.6』を持っていきます。
文フリにお越しの際はぜひブース【I-21】にお立ち寄りください!#文フリ #文学フリマ #文フリ東京 #文学フリマ東京 pic.twitter.com/QuLd8gzmYw
内容としては、いわゆるハウダニットです。思えばはじめて書きました。それ以外にも、いままでやってこなかったようなことをやったつもりですが、書いてみるといままでの鷲羽巧の延長でしかない気もします。ならばここからどこまで行けるのか。さいきんはそんなことをよく考えます。
一応、探偵役として十文字あやめと云う学生を据えており、「鴉はいまどこを飛ぶか」「鳥類学者の記憶法」に連なる作品です。とは云え彼女を引っ張り出したのは急遽〝第三者の立場から事態を見直す人物〟がいたほうが良いと思ったからで、シリーズとしては番外篇的扱い*1*2。単体でもお楽しみいただけます。