鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

文章練習:2021/12/07

説明
  1. 写真に何が写っているのかを書く
  2. 出来たものを半分くらいまで削る
書く

 中華街の店、ジャンルを問わず古道具を売るその店先のワゴンの前に、一家なのだろう四人の男女がたむろしている。とくにワゴンに興味を示しているのはいちばん年少の男の子で、明るい空色の上下に身を包んでいる。伸ばしかけの髪を整えていかにも洒落者に見えるのに、振る舞いは歳相応に子供っぽい。男の子の左隣で付き添っているだけのふうを努めて装い、ゆえにかえって弟と同様の興味を押し隠せていない兄は真っ赤なジャケットを着ていた。少年ふたりは明るいブロンドだったが、右隣にいる黒のスーツ姿の、おそらく父親は暗い茶髪で、明るい色に見えるのは襟足の白髪だった。父親は子どもたちの横からワゴンをのぞき込み、両手をポケットに突っ込むその斜めの姿勢はふたりの親と云うより年長の友人のように見える。一家の男たちは見慣れない雑貨を前に、一様に少年になったのだ。母親は少しく距離を置いて、彼ら三人を眺めていた。わたしの視線は実のところ初めから彼女に焦点を合わせ、男たちは視界の背景でぼやけ、赤と青と黒の色の集まりでしかない。彼らの単色の服装と違って母親の服は白地に赤とピンクが複雑に花柄をつくる派手なもので、いまも成長し続けるようにうねるその模様と、パーマをかけた明るい髪がよく合っている。左耳には、濃い橙色の飴のようなイヤリング。左腕にハンドバッグを提げ、その手には厚手の白い手袋を嵌めて煙草を握っていた。すでに半分まで短くなっている。家族を見つめる彼女の表情はわたしからは窺い知れない。けれどたぶん、呆れているんだろう。(644字)

削る

 中華街の古道具屋、店先のワゴンの前で四人組の、おそらく家族の男女がたむろしている。とくに興味を示しているのはいちばん年少の男の子で、空色の上下と伸ばしかけの髪がいかにも洒落者であるけれど、振舞いはやはり歳相応だ。真っ赤なジャケットのを着た兄も男の子の隣で付き添っているふうを懸命に装いながら、押し隠す好奇心が顕わになっている。ふたりの父親が両手をポケットに突っ込んで横からワゴンを覗き込む姿勢も、親よりむしろ年嵩の友人のそれ。揃って少年になった男たち。少しく離れて母親が、煙草片手に彼らを見つめていた。彼女に焦点を合わせると少年たちは明るい赤と青の単色へとぼやけ、白地にピンクと赤の複雑な花柄模様をあしらう服装がはっきりと見えてくる。煙草は半分まで短くなっている。母親の表情は窺い知れない。けれどたぶん、冷たく呆れているんだろう。(365字)

反省
  • 色の描写はいままで自分が蔑ろにしてきたもの。小説を読むときも、色が出てきてもつい、その色を思い浮かべることなく字面だけを眼で追うに留めてしまう。
  • 写真をよく見たらもうひとり子供がいた。
  • 一週間経った。気分転換に、次回はホッパーの絵を題材にしても良いかも知れない(それはそれで苦行では)
出典

Fred Herzog, Family, 1967.