鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

文章練習:2021/12/06

説明
  1. 写真に何が写っているのかを書く
  2. 出来たものを半分くらいまで削る
書く

 交叉点の角に、何十年も開いている理髪店。通りに面したウインドウは曇りなく磨かれて店内を薄く反射しているけれど、ガラス表面で箱文字ふうに描かれてある白と橙の「MAIN BARBER SHOP」――店内から見ているのですべて鏡文字になっているが――は塗装が擦り切れ、ペンキが塗られた当時に刷毛がどう動かされたのかあらわになっている。外の通りは晴れ。午後の陽が差し込んで、裸のまま吊された電球を点けなくても店内はじゅうぶん明るく、暖かい。店内の一方の壁にくっつけて置かれた机には散髪中手持ち無沙汰にならないよう手に取る読みものとヘアカタログがトランプのデッキを開くときのように隣に半分ずつ被せられて広げられている。最新のものは新聞紙くらいで、ヘアカタログも男性誌も、何年も昔のまま更新されず、客たちにめくられ、読まれ、すっかりへたっている。白い塗装を何度も塗り重ねてきて凹凸ができている壁には髪型のモデルとしてハンサムな男性の頭部を様々な角度から写したピンナップが八枚貼られている。どれも似たような髪型で、とても流行とはほど遠く、ピンナップも湿気でしわがより、縁がめくれ上がって、カレンダーに上から被せられているものもある。誰もその顔を参考にしない。代わりにそのハンサムな男たちが、店を見守ってきたわけだ。斜めに差す陽が明るい菱形を壁に作って、スポットライトのように、もはや名前も知られていないハンサムな彼を照らしている。(595字)

削る

 交叉点の角に戦前からある理髪店だ。壁に貼られた男性のピンナップは昔はヘアカタログの代わりだったのだろう、流行遅れの髪型をしたハンサムな彼を様々な角度から写している。褪せて、よれて、縁がめくれていた。その下の机に広げられたヘアカタログもずっと更新されていない。読まれて繰られて、しかしついには誰からも手に取られなくなった古びた雑誌。通りに臨んで一面に張られた窓から差し込む午後の陽が、それら褪せたモデルを照らしていた。窓硝子は曇りなく磨かれ、店のなかを薄く反射している。窓の真ん中には、店内からでは鏡文字に見える「MAIN BARBER SHOP」。白字もそれを縁取る橙も擦れ切れてしまい、塗りのムラがあらわになっている。ずっと昔、この店名を描いたときにどうやって刷毛が動かされたのか、いまならわかる。(337字)

反省
  • 「懐かしい」と書かないで、古いものを「懐かしい」と思わせられるかどうか。
  • 自分の文体に合った訓練なんだろうかこれは、と段々不安になってきた。しかし、じゃあぼくの文体って何?
出典

Fred Herzog, Main Barber, 1968.