鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

文章練習:2021/12/02

説明
  1. 写真に何が写っているのかを書く
  2. 出来たものを半分くらいまで削る
書く

 街の大通り。五車線はあって幅が広い。住宅ではなく店が並び、歩道の上の視界を幾つもの看板が塞いでいる。横長の青い矩形。縦長の赤い矩形。カフェ。バー。食糧品店。雑貨屋。そのほか店名だけからは判別できない業種。わけても多いのはホテルだった。道の両岸どちらのビルからも、幾つも「HOTEL」と書かれた看板が飛び出していた。けれどいちばん目立つ看板は「BALMORAL」とある服屋のそれで、赤いネオンで縁取られた白い積分記号が上から下まで長く伸び、くるりと丸まった下部につけられた時計が午前九時二十三分を指している。朝の空気は霞がかかって、通りの果てを見通すことはできなかった。車道のわきに車を駐めている黒い背広の男のうしろを、上着を着崩して黄色いシャツが覗いている労働者ふうの男が横切る。まだ登り切らない太陽が彼らの足許に長い影を作り、灯されることなくずらりと並んで立ち尽くしている街灯の影と平行に斜線を伸ばしていた。街区の境目に立つ街灯は目印でもあるのだろう、ペデスタルボックスとトマト色のポストがそばに置かれ、バス停と道案内の表示板が掲げられている。老女はけれどそのいずれも見ることなく、車が来る方向を睨んでいた。その身を包むシックな黒いコートの首許からは赤と灰緑色のスカーフが覗く。頭には白いハットを被せ、黒革の財布と外された白い手袋と両手に持ち、片腕からは鱗模様の焦茶色のハンドバッグを提げていた。脇に抱えた木製の杖は真っ直ぐで、下の部分に僅かな瘤がある。その杖と同じように、しゃんとして、それでいて経てきた齢を感じさせる顔つきの彼女が睨んでいるのはこれから来る車ではないかも知れない。彼女の目の前には男がいた。細身だががっしりした体つきの三、四十くらい。上半身には薄手のシャツ一枚しか着ていない彼は右手を挙げてタクシーを捕まえようとしている。煙草を掴んでだらりと下げた左手は白い包帯が手の甲から手首にかけて巻かれていた。男は怪我をしたのかも知れない。彼の顎には絆創膏が貼りついて、赤い血を滲ませながら、半分剥がれかけていた。(855)

削る

 大通りには多種多様な店が並び、カラフルで多様なかたちの看板を歩道の上に差し出していた。とりわけ目立つのは服屋のそれで、赤いネオンで縁取られた巨大な積分記号が上から下まで長く伸びていた。くるりと曲がったその下部は時計になっていて、いまは午前九時二十三分をさしている。朝の空気は霞がかかって、通りの果てを見通すことはできなかった。昇り切らない太陽が、歩道を歩きあるいは立ち止まっているひとびとの影を長く伸ばしていた。通りの先からずらりと並ぶ濃い緑色の街灯は、街区の境目に立っている一本がバス停代わりにもなっていて、表示板や案内板が掲げられてある。足許にはトマト色のポストもあった。老女はその側に立ってバスを待っていた。わきから提げた木製の杖と同じように、背筋を伸ばして凜としながらも重ねた年月を感じさせる顔つきで、車が来る方向を見つめている。彼女の目の前には壮年の男がひとり、右手を挙げて車を捕まえようとしていた。細身ながら丈夫な体躯。煙草を抓んだままだらりとさげた左手には手の甲から手首にかけて包帯が巻かれている。男は顎にも怪我をしており、半分剥がれかけの小ぶりの絆創膏が貼り付けられ、血の染みが大きく滲んでいた。(509)

反省
  • もっと削りようがあると思う。描写の順序を入れ替えるとか。
出典

『Fred Herzog: Modern Color』より「Man with Bandage, 1968」。