鷲はいまどこを飛ぶか

多くの場合は、小説について。

創作「学問の厳密さについて」

書いた掌篇の出来に多少の自信があるときだけブログに公開するならば、ますます何も出さなくなるだろう。自信があるかどうかは問題ではない。うまく書けるかどうかは重要ではない。書き続けること。これだ。 機関誌の掌篇競作のために書いた。字数制限は1600…

「鴉はいまどこを飛ぶか」に関するメモ③

前回、前々回からのつづき。 washibane.hatenablog.com washibane.hatenablog.com 語りすぎている。いい加減終わらせたい。 どこまで? トイレだったことはよく憶えている。ぼくがその推理を思いついたのは、実家のトイレの便座に腰掛けていたときだった。何…

「鴉はいまどこを飛ぶか」に関するメモ②

前回の続き。 washibane.hatenablog.com どこへ? 趣向をとりあえず考え、犯人を警官とすることまで考えたので、次に具体的な推理・手がかりを考えることになる。が、正直、あれこれ書いては消してみて、正確なところはやはり憶えていないと云う結論になった…

「鴉はいまどこを飛ぶか」に関するメモ①

小説を書くときに何を考えていたかと云うものは所詮後付けに過ぎず、文章を綴る、鉛筆を走らせるその一秒、文字を打鍵するその一瞬に何を考えていたかと云えばそのとき書いている文章以外にはないはずで、つまり、小説を書くときに考えていたことが小説であ…

創作「鳥はいまどこを飛ぶか」

サークルの会誌に書くための中篇が汲々として進まないので息抜きに書いた。リョコウバトを題材とすることはエモすぎるので国際条約で禁止されるべきとの向きもありますが、本作ではニホンリョコウバトと云う別種なので大丈夫です。 大学三年の夏、わたしはリ…

ツイートの代わりに:2022/07/24

今福龍太『原写真論』を読んだ。主として今世紀に書かれた写真論を集成したもの。総じて面白く読んだけれど、ポストコロニアリズムについて著者のある種楽観的な態度と、ラテンアメリカや沖縄をめぐるシリアスな現状とのあいだで軋みを上げているようなもの…

ツイートの代わりに:2022/07/23

ジャンル論なんていくらでも反例が生えて来るのだから、トップダウンで考えるより具体的な作品の検討からボトムアップで構築した方が妥当なものができると思うが、しかし考えてて楽しいのは圧倒的に、デカい話の方である。 ある土地のある時代の銃取引につい…

ツイートの代わりに:2022/07/22

パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ:二〇世紀概説』(エクス・リブリス)を読んだ本に追加→ bookmeter.com 短くも濃密で、凄惨にして滑稽な二〇世紀史。あるいは、二〇世紀史を語らないことによって二〇世紀史を捉えようとする試み。高く、高く、高…

ツイートの代わりに:2022/07/21

日記の代わりに。 (面接が)終わりー。 魚(うお)~♪ 魚魚~♪さあ輪になって食べよー♪かーわーざーかーなー♪締めて食べるかーらー♪ 「世の中興奮することっていっぱいあるけど、やっぱり一番興奮するのはみすず書房の近刊案内見てる時だよね」「間違いないね…

日記:2022/07/19

8時に起きる。30分ほどだらだら。このだらだらとした時間がいちばん良くない。それはわかっている。 一限をzoom講義で受ける。先生が慣れていないからか、誰かがマイクミュートにしていないせいでずっとがさごそと朝の生活音が聞こえるからか、何もわからな…

日記:2022/07/18

三年が経つ。世界はずっと前に壊れており、いまも壊れ続けている。 昼前に起きる。ブランチを済ませて大学の図書館に行く。資料にあたりながらレポートを書こうと思っていたが、あいにく閲覧席は満杯だ。代わりに本を何冊か借りて、喫茶店に行く。レポートの…

日記:2022/07/17

ツイートする代わりに日記を書くことにする。続けられるように続けるつもりなので、毎日は更新しない。飽きたらやめる。 8時半にはいちど目を覚ますが、もう一度寝たりだらだらと転がったりしているうちに午前10時前になる。朝ごはんは食べない。この数ヶ月…

2022年上半期ベスト

これくらい単純なことがあるだろうか?――リチャード・パワーズ『黄金虫変奏曲』(みすず書房) 複雑に延び、繋がり、分断された露地を進んだ。――小川哲『地図と拳』(集英社) 上半期ベストの季節がやってきました。やって来てしまいました。いままでは半期…

創作「帝国と云う名の地図」

突発的に書いた掌篇。地図小説です。元ネタはボルヘスのアレ。 過去のあらゆる地図よりも正確な地図をもとめたのは四人目の皇帝だったとされる。この頃、帝国の版図は建国以来最大を更新し、千年間で最も権勢を誇った。皇帝が地図を求めたのは、この治世を確…

小川哲著『嘘と正典』文庫版の解説を担当しました

こんにちは。鷲羽巧です。 小川哲さんの短篇集『嘘と正典』文庫版の解説をこのたび担当しました。 解説では、個々の作品の読解から、作家・小川哲の魅力、そしてぼくはそもそも誰なのか――なぜ一介の大学生なのにこのような大役を任されたのか――も含めて書い…

ブランコを漕ぐ

何かを考えたいときは散歩する。何かを考えながら散歩するときに公園が目に入ると立ち寄る。そこにはたいていブランコがある。両脚をピンと伸ばして、勢い良く漕ぐ。振り子の周期をその身で感じながら、何かを考える。多くの場合、それは夕暮れから夜中だ。…

創作「ウボンゴ小説集」

『文体の舵を取れ』の練習問題⑦ではウボンゴ小説と呼ぶべき掌篇を提出した。この記事は過去複数回にわたって発表したそれらのまとめ版。なぜまとめたのかと云うと、ウボンゴが話題に出るたびにリンク貼るのに、記事が複数あると面倒だからだ。最近はゲーム小…

創作「象と絞首刑」

名探偵の話です。最後に残ったものが勝者だ。 象と絞首刑 指し手たちがその場を去っても、時が彼らを消滅させても、儀式が終わらぬことは確かだろう。――ホルヘ・ルイス・ボルヘス「象棋」(鼓直訳) 小父さんが死んだ。高名な推理作家だった小父さんの死を多…

『九尾の猫』読書会レジュメ

一年前、所属しているサークルでエラリイ・クイーン『九尾の猫』の読書会をおこなった。我ながら気合いの入った文章だと思うし、それなりに褒めてもらえたので調子に乗ってここに公開する。久しぶりに読み返したら「けっこううまくやってんじゃん」と思った…

創作「面接」

あなたの名前を教えてください。 文子。文子と書いて、あやこ。戸籍はそう登録されているはずだけれど、母はわたしをふみと呼び続けた。父に名前を呼ばれたことは一度もない。近しい友人はわたしをぶんちゃんとかあやとか名付けた。大学では烏丸と呼ばれるこ…

書きやすい文体で書くとなると

こうなる。パワーズの出来損ないみたいだ。 きのうきょうと書き進めていたが、お話の方がどうにも掴めない。 その報せを、わたしは早朝の東京駅で受け取る。父の死。音にしてたった四文字。ひと影の疎らなプラットホームで、すべてが静止したかのように灰色…

文体の舵を取れ:練習問題⑩むごい仕打ちでもやらねばならぬ

ここまでの練習問題に対する自分の答案のなかから、長めの語り(八〇〇字以上のもの)をひとつ選び、切り詰めて半分にしよう。 合うものが答案に見当たらない場合は、これまでに自分が書いた語りの文章で八〇〇〜二〇〇〇文字のものを見つくろい、このむごい…

進捗がない。 「開けなさい」 ノックと云うにはあまりに激しい、こぶしが扉を撲る音。窓の鎧戸が下ろされ明かりも落とした部屋、立方体にぴたりと詰まった暗闇のなかで、少年は布団を頭から被る。両手で耳を塞ぎ、ベッドの上に壁を向いて蹲る。瞼を閉じる。…

文体の舵を取れ:練習問題⑨方向性や癖をつけて語る 問三

問三:ほのめかしこの問題のどちらも、描写文が四百~千二百字が必要である。双方とも、声は潜入型作者か遠隔型作者のいずれかを用いること。視点人物はなし。 ①直接触れずに人物描写――ある人物の描写を、その人物が住んだりよく訪れたりしている場所の描写…

文体の舵を取れ:練習問題⑨方向性や癖をつけて語る 問一、問二

問一:A&B この課題の目的は、物語を綴りながらふたりの登場人物を会話文だけで提示することだ。 四百~千二百字、会話文だけで執筆すること。 脚本のように執筆し、登場人物名としてAとBを用いること。ト書きは不要。登場人物を描写する地の文も要らない。…

でも、じゃあ、どうやって?

駄目になっていた。ひとと話すときはいつもの調子に戻るのだが、ひとりになると駄目になってしまう。ただ、用事がない限り出席しようとしていた読書会を、駄目になっているうちに無断欠席してしまった(スマホもまったく見ていなかった)ことをうけて、流石…

文体の舵を取れ:練習問題⑦視点(POV)問四

400〜700文字の短い語りになりそうな状況を思い描くこと。なんでも好きなものでいいが、〈複数の人間が何かをしている〉ことが必要だ(複数というのは三人以上であり、四人以上だと便利である)。 出来事は必ずしも大事でなくてよい(別にそうしてもかまわな…

読書日記:2022/01/18~2022/01/21

ミステリーズ新人賞に送るための短篇小説の構想が、いつまで経ってもまとまらない。早いうちに目処を立てて、鮎川哲也賞に送る長篇に取りかかりたいのだけれど。 有栖川有栖の中短篇集を読んで、〝名探偵〟が登場して腰を据えた捜査をする作品は短くとも中篇…

読書日記:2022/01/11~01/15

ミステリ研にいたこの4年間、ミステリを相対化するばかりで、〝本格ミステリ〟なるものと四つに組むことを避けてきたように思う。 大山誠一郎『記憶の中の誘拐 赤い博物館』(文春文庫) 麻耶雄嵩『螢』(幻冬舎文庫) 綾辻行人『霧越邸殺人事件〈完全改訂版…

文体の舵を取れ:練習問題⑦視点(POV)問二・三

四〇〇〜七〇〇文字の短い語りになりそうな状況を思い描くこと。なんでも好きなものでいいが、〈複数の人間が何かをしている〉ことが必要だ(複数というのは三人以上であり、四人以上だと便利である)。出来事は必ずしも大事でなくてよい(別にそうしてもか…